再会
3月の某日。彼から連絡があった。夏にあって以来、彼とは連絡を取っていなかった。受験シーズもそろそろ終わるころ、こちらから連絡を取ろうと何度も思ったが、どう話しかけていいか迷っていて話しかけることが出来ないでいた僕にとっては助け舟のようなものだった。
彼からの久しぶりに会おうという提案に僕は賛成し、後日会うことになった。友人の少なくインドア派の僕にとって外出の予定が出来ることは珍しく、また今回の春休みに入ってから友人と会うことは初だった。
僕は久しぶりに会う彼のことを想像した。受験はどうだったのだろうかと。彼から連絡がきたということは彼は仮面浪人生から脱却したのだろうか。
そして彼と会う当日彼は髪を青色に染め、大学生活を謳歌している姿で現れた。僕は彼のその姿に驚きながらも、それには触れずに挨拶を交わし近くのファミレスで昼食をとることになった。
彼の口からは受験の話が出ることはなく、ただ互いの近況や他の同級生の話、思い出話などの世間話が中心だった。僕はそれらの話が面白くなかったわけでないが、彼が来年度どうなるかが一番気になっていたことだし、これまで気にかけ応援してきたので、結果が知りたかった。だから僕はそれとなく勉強に話題をふった。
「大学の単位は全部とれたの」
「それは大丈夫。問題ないよ。俺の大学レベルで単位落とすわけにはいかないからね」
「そっか。大学の勉強は苦戦してないんだ。大学以外の勉強はどうなの」
僕の質問に彼はため息を少し吐きながら言った。
「そのことなんだけどさ。俺、今年受験してないんだよね。センター試験を受けるどころか出願してないんだ」
予想していなかった返答に言葉が出ない。受かったか受かっていないかの2択だと思っていたけれど、まさか受けてすらいないなんて。僕は以前あったときの言葉が浮かんだ。
「でも、前にあったときは弱音をはきながらも頑張るって言ったじゃないか。僕に誓ったよね。誰かに誓うことで、それを裏切らないように頑張れるって」
「あぁ、そうだよ。そうだったよ。少し前は誰かとの約束が俺を進めてくれる一歩になってくれると思っていたんだよ。でも約束したってやる気なんてものは出てこなくて、約束を無視して怠惰な生活を送ってしまって。出願時期がきて気付いていないふりをして、出願しなかったんだ。俺はこういう人間だったのかって実感したよ。でもそれを気に病むことはなかったんだ。もう、こういう人間なんだって諦めて受け入れたのさ。そしたら今までの重みが全てなくなったんだよ」
僕はただ彼の言葉をぼーっと聞いていた。彼を攻める気にはなれなかったし、むしろ彼の言葉のすべてを僕は分かったような気がした。
「結局さ、それって他人とする約束なんて意味がないってことだよね。自分が自分にした約束じゃないと意味がないんだよ。他人と約束するときだって本当は自分と約束しているんだよ。あのときの君は僕と約束したのかもしれないけれど自分とは約束していなかった。ただそれだけだよ」
僕が怒っていると勘違いしたのか、彼は僕に謝ってきた。僕の言葉の真意を分かっていないようだった。
「失望しただろ。あんなことを言っておいてさ、今こんなだぜ。でもこれが、こういうのが俺なんだ。お前がどう思うかは分からないけれど、俺はこんなままで生きていくと思うんだ。それでもお前は俺と仲良くしたいと思うか」
彼は答えづらいことを聞いてきた。彼が求めていることは何となく分かる。僕だって誰かにいつもその言葉を求めている。でもそれを僕は言わなかった。いや言えなかった。
「失望なんてしていないよ。失望っていうのはさ、まず大前提にある程度の期待や評価があるもんだよ。君は僕が君に対してそれがあると思っているようだけれど、それは勘違いだよ。僕は君にそんなものを今は持っていない。それは君が悪いとかではなくて僕がそういう人間ということだけだ。だから特別君と仲良くしたいなんてものはない。僕は、誰かと仲良くしたいのであって、特定の人ではないんだ。だから君と中訳したいと思っていないと言えば思っていないし、思っているといえば思っている」
不穏な空気が流れ、彼は帰り、今日は居心地の悪い一日だったなと振り返ることになりそうだと思っていたが、そうはならなかった。「お前はそういう人間なんだな。少しわかったよ」と苦笑いしながら言った。苦笑いではあったが前向きの表情に僕は見えた。
その後、映画を見て、映画館付近の店を意味もなく入った。そしてすることもなくなってしまい、彼と僕は電車に乗った。
「もう仮面浪人生じゃないんだよね」と僕は聞いた。
「そうだな。仮面浪人生じゃないな。最初は仮面浪人だーって気合い入れてたけど、そんなのはこれっぽっちも残ってないね。なんか自分はこういう人間だって分かって諦めて受け入れちゃうとほとんどなくなっちゃったよ。良いものも悪いものも。ずいぶん軽くなった」
「そうか。仮面ロウニンダーも終わりか」僕が小さくそういうと、彼は聞き直してきた。
「え、いや何でもないよ。ただ君の敵は何だったのかなって」
「それは間違えなく自分でしょ。これはお前も一緒だろ」彼はそう言った。そして駅に着いたからじゃあまたねと電車から降りた。
やっとこれも一応完結。相変わらずの駄作となりました。もっと色々と書きたかったけれど、綺麗にまとめて書けそうにないし、これを書くのがしんどいし題名とずれるので止めることにしました。
読んでくださった方、ありがとうごさいました。少しでも何か思うことがあれば、及第点は辛うじて取れているかなといった感じです。思うことがマイナスではないことを祈るばかりですが、本当に最後の最後の後書きまでありがとう