ロウニンダーの夏
彼が仮面ロウニンダーになってからの夏がきた。セミが例の如く求愛行動にいそしんでいる。自分が求愛行動する日は来るのだろうかと思いながらセミを見つめる。
今は夏休み。彼とは久しぶりでもない気がするが、今日会うことになっている。僕は誘った側ではない。いくら仮面でも、浪人生を誘うほど無神経ではない・・・つもりだ。これは彼からの誘いだ。断る理由もないし、数少ない友人と呼べる存在なので快諾した。ちなみに僕は友人が少ないだけで、寂しい奴ではない。と言い聞かせている。
待ち合わせ時間の2,3分前に彼は現れた。以前会ったときと外見には特に変化がない。ここで茶髪だったりピアスを開けていても彼らしくなくて引いてしまうし、しっかり勉強してるのかと聞きたくなってしまうのだが。いや浪人生に外見は関係ないか。結局は頭の中、脳みそが物を言うのだから。
彼はいつもどおりの笑顔で久しぶりと声をかけてきた。今日の予定は特に聞いていなかったので何をするつもりなのか聞くと、特に決めてないと返ってきた。互いに顔を見合わせ、したいことないのかよと言い合う。
したいことが互いに挙がらなかったので、とりあえず近くのファミレスに入った。彼も僕もこれまたとりあえずドリンクバーを頼む。彼はコーラで、僕はオレンジジュースを入れる。
彼はストローでグラスに入ったコーラをかき混ぜている。氷が発する音が心地よい。そういえば氷を入れ忘れたなと思っていると彼が口を開けた。
彼の話を要約すると、夏休みに入った、つまり8月になってもまだ友達と呼べる友達が出来ていないらしい。僕からすると気にすることないので、正直にそう伝える。すると彼も気にしているわけではないらしい。ただ昼食を一人ぼっちで食べる空しさに押しつぶされそうになるそうだ。以前会ったときも似たようなことを彼は言っていた。僕にはどうすることも出来ないので、ただ相槌を打っていた。
「俺って社会に出たくなくて大学進学することにしたんだけど、こんな気持ちを味わうために進学したわけじゃないんだよな。俺にとって大学生は輝いているものだったのに、いざ自分が大学生になると想像よりくすんでいて驚いてる」彼はそう言うとコーラを一気に飲む。
「自分の大学生活がくすんだものになってるのは、お前が今の大学に満足してなくて仮面浪人生だからじゃないの。今のお前って大学生という仮面を被っているだけでほんとは浪人生なんだから仕方ないんじゃない」僕はオレンジジュースを飲み干して言う。言ってからまずいことを言ったかもしれないと彼の顔色を窺う。しかし彼は気にしてはいないようだ。
「確かにそれはあるかもしれないな。受験勉強で得たのは学力じゃなくて無駄なプライドというか意地な気がするよ。負けたってことを、してきたことが実らなかったことを認めたくない俺がいる。でも一方でもうそんなのには疲れて大学生活を純粋に楽しみたい俺がいる。大学の授業は面白いし、大学で前を向いて進むほうがいいんじゃないかって」
「じゃあ、そうすればいいじゃん。そんなこと言ってるってことはどうせ夏休みも碌に勉強してないんだろ。そう思うならもう諦めたらいいじゃん。中途半端が一番良くないよ」
「お前ってほんと痛い所を衝くよな。そうなんだよ、夏休みを無駄に時間を潰しちゃってる。だけどこんなにも踏ん切りがつかない。ここで諦めたら後悔する気がして仕方ない。諦めても学歴コンプが完全に消えるわけじゃないから、きっと同窓会とかで俺より上の大学の奴とあったとき、悔しさっていうか羨ましさっていうか劣等感を感じたくないんだよ。俺なんかと話しをするような奴じゃないとか、俺のことどっかで見下してるんじゃないかとか邪推したくないんだよ。純粋に話したいんだ。諦めたらそれは叶わない気がする」彼もコーラを飲み干して言う。
僕はかける言葉が見つからなかったので新たに飲みものを入れに席を立つ。彼はコーラといって僕にグラスを渡してきた。僕はそれを受け取り、コーラとオレンジジュースを入れて、席に戻った。
席に戻った僕に彼は宣誓をした。
「宣誓。俺は勉強に取り組み、諦めそうになっても、たとえ受からないと感じても、大学をもう一度目指すことを誓います」
僕は少し間を空けて聞いた。どうして俺に宣誓したのと。彼は友達に言ったことを嘘にはしたくないから勉強するだろうし、神様とかに誓うより効果がありそうだからと言った。そのときの彼の顔は今までと少し変わった気がした。