ロウニンダーの嘆
ロウニンダーの嘆は亡羊の嘆からきています。恥ずかしながら今回の題名のために調べたりしていて初めてこの亡羊の嘆という言葉を知りました。意味は知っている方もいるとは思いますが説明をしておきます。
中国の道家の思想家、列子の故事からきており、ここでの意味に限らせて言わせてもらいますと「いくつもの方針があって、どれを選ぶべきか迷うこと」(明鏡国語辞典)また多岐亡羊ともいうことがあるそうです。こちらのほうがメジャーかも。
ただ単にロウニンダーの嘆きという意味も入れたいため亡羊の嘆のほうを採用しました。
そんな彼が今の自分の道を良くするため手段が"仮面浪人"だということだ。この判断が正しいのかは僕には分からないし、人の選択にけちをつけるほど僕が優れているというわけでもない。
仮面浪人した彼はサークルなどには入らなかったらしい。何より新歓コンパにも一切参加していないらしい。そのため5月を経て6月に入ってもこれといった友人は作れていないという。そんな彼は常々このような不満を垂れる。大学は思ったよりも楽しくないし、それどころかつまらないと。僕としてそうしているのは自分じゃないのかと言いたいのが、ぐっとこらえている。
そんな彼だが、実際入試の勉強をどれだけしているというと全くしていないらしい。これには僕は呆れた。なんだかんだ応援してきた僕だが、こんな奴を応援していいのかと思ってしまう。言い訳は大学が思った以上に忙しいということと通学に時間がかかるということを言っているが、そんなのはやる気でどうにかして欲しいものだ。
そんな言い訳ばかりを繰り返す彼に本音はどうなんだと問うてみた。色んな言い訳を笑いながら言っていた彼は黙り込んだ。そして遠くを見ながら、僕に言うわけでもなく、独り言のように話し始めた。
「知ってるとは思うけど、俺ってさ、中学のときは全く勉強してなかったし、高校も2年の途中までは就職希望だったんだよね。そんな奴がたった高校の約1年半だけ勉強してさ、失敗した。進学の動機も不純だったし当たり前といったら当たり前なんだけどさ。初めて頑張ったっていうかあそこまで何かに集中したんだよね。目標をもって何かをすることって確かに失敗のリスクとか怖さがあるけど、何か落ち着くっていうか無駄なことを考えなくて済む感じが心地よかった。受験失敗して目標がなくなって、でも新たな目標が見つけられなくてとりあえずリベンジだって仮面浪人になるって決めたんだ。でも今はそんな気持ちでしたってまた失敗する気しかしなくてさ。実際言い訳ばかりで勉強もしていないから落ちる未来しか見えない。それに高2の途中まで就職希望だった奴が学歴コンプって・・・・。なんかかっこ悪いっていうか可笑しい感じがしてさ。このまま中途半端なままで大学生活を無駄にしたくないって気持ちもあるし、周りはほんとに楽しそうに笑っててさ。俺未だに昼飯ぼっち飯なんだぜ。空しくなっちゃてさ。そう思いだしたら迷いだしてるんだよ、今」
彼は自分でも上手くまとめられないまま思ったことをそのまま言っているようだった。彼に本音を問うたくせに、いざ答えられると何も答えてあげられない自分が情けなく感じた。
「ごめんな。お前には関係ないのにな。いっつも話し聞いてくれてありがとう。悩みとかネガティブなこと言うと相手を困らせるから我慢してるんだけど、なんでだかお前にはいつも話しちゃうんだよな。ごめん」と苦笑いをしながら彼は言う。お前には何か悩みとかないのと尋ねてくれたが頭を振った。お前は強いなという彼に僕も君と一緒で相手を困らせたりするのが嫌なんだよと心の中で言った。
「迷うのはいいけど帰り道が分からなくなるまでは迷うなよ」と一言だけ僕は彼に言い、彼は微笑みながらありがとうと優しく言った。