まだ仮面を被ってない
公立や私立も難関だと思っているので、作品ではそのような扱いしています。
東大京大や旧帝大以外難関大じゃないなどそんな意識高い勝ち組はこの作品は読まないことをおすすめします。
彼は失敗した。志望校には受からなかった。しかし大学には受かった。
某私立大学。そこに進学するつもりなんて彼にはほとんどなかった。だから志望校に受からなかった彼の頭に浮かんだ"浪人"という言葉。しかし彼には受かった大学を犠牲にして、志望校に受かる自信はなかった。もう一度失敗することも怖かったのだ。
そんな彼が選んだのは中途半端な道だった。仮面浪人である。
仮面浪人とは大学に通いながら、受験勉強を行い、本当の志望大学への入学を目指すことだ。大学生という仮面を被った浪人生だ。
まずは仮面浪人になる前の彼。つまり高校時代、さらには中学時代の彼にも少し触れながら述べるとする。
高校時代の彼は真面目であった。三年間休むことはもちろんのこと、早退や遅刻もしない生徒であった。
ただ勉強はというと....お世辞にも頭が良かったとは言えないのが事実である。高校内の順位としては総合10位以内の成績であったが、それはレベルが低い高校であったから。ここだけの話、彼の通っていた高校は、学区の公立校の普通科で一番下であり、偏差値も50には背伸びはもちろん、ジャンプしても届かない高校であった。つまりレベルの低い高校での校内順位など受験において毛ほども役に立たず、全国的にみれば下位であったことは間違いない。端的にいうと馬鹿であった。
もともと彼は中学生のときに受験勉強などしなかった男である。受験勉強から逃げて高校にいった。勉強することは自分が馬鹿であること思い知らせれるようで彼はすごく嫌っていたのだ。馬鹿であること受け入れて変わるような努力はせず、ただ嫌だと逃げた。きっと本気で立ち向かって、そのうえで敗れることに強い抵抗というか恐怖があったのだろう。そんなこんなで彼はこれといった受験勉強をするわけでもなく、底辺の公立高校に入学したのだった。
高校に入学した彼は学校内ではそこそこのレベルにいた。だけど高校1年生の彼には進学という言葉はなかった。彼は就職希望だったのだ。そのため彼は2年のコース選択を文系とし、また選択科目もあまりよく考えずに選んだ。しかし2年次彼は進学の道に大きく方向転換をする。今振り返ってもクソな理由だったなと彼はよく僕に言う。
彼は2年にあがり、その学校では勉強できる勢のクラスに入った。彼はそこで少し調子に乗ってしまったのだ。「俺ってできるんじゃね。進学でも目指すか」と。もちろん彼は勉強は嫌いであったし、進学してやりたいことや夢があったわけじゃない。ただ就職して働くよりも大学のほうが楽だと感じたのだ。つまり働きたくないから進学したい。彼はバイトで失敗するだけでひどく落ち込むような豆腐メンタルの持ち主だった。彼はこの豆腐メンタルのまま社会に出るのが怖かったのではと僕は思う。
そんな彼は一応真面目君であったから、「こんな不純な理由では授業料の高い私立にはいけないな。国公立を目指して頑張るよ」と僕によく語っていた。
そんな彼はまだ進路に悩みながらも勉強を始めた。それが2年の夏休みが終わった2学期の初め。彼は塾にかようわけでもなく、学校に残って勉強をした。最初は集中力が持たずにぼーっとしていることが多かった。勉強といっても学校の教科書や問題集を少し解く程度だった。そんな状態のまま月日は流れていった。彼が本当に曲がりなりにも勉強をしていると言えるようになったのは10月の中盤辺りであった。その時期に彼は自身の重大なミスに気付いたのだ。
「俺、センターに数Bいるのにとってないんだけどどうしよ」彼は僕にこう言った。僕はとくに気にしなかった。だって3年になっても選択科目にあると思っていたから。
そして彼は3年生になった。しかし数Bの選択科目はなかった。彼は焦った。それはそうだろう。数Bを完全独学で勉強することがほぼ確定したのだ。数学の苦手な彼にとってはこれは大きな、非常に大きな足枷だった。彼は他の高校に進学した友達と話をして気づいた。他の高校では数Bが必修科目とされていることが多いことに。そして自分の高校のレベルが改めて低いことに。彼の高校では数Bは理系のみ必修科目とされているのに対し、他の高校では文系であっても必修科目なのだ。
彼は気づいた。2年に上がった時点でもう他の高校と大きな差があったことに。
彼の高校のカリキュラムは難関大学(国公立、私立)の進学には適さないものだったと思う。授業の内容もきっとあまりいいものとはいえないだろう。だけどそれは仕方のないことだ。だってそこの高校は就職組もいるし専門学校組もそこそこの割合でいる高校であったし、4年制大学でも進学の意識が高い高校とは言えなかった。そんな高校で高いレベルの授業内容を求めるのは少し違うだろう。だって多様な進路をもつ生徒がいるのだから。
彼の負け犬らしい学校への不満を書き連ねるとそれだけこの話が終わってしまうのでそれは書かないことにしよう。そんなこんながありながら彼は大学進学への勉強を続けていくのだった。




