15話 茉莉の回想ー03
事態が余りにも自分の想像を外れた時や、
堪え切れない恐怖に襲われた時、
人は、笑い出してしまう。という様な事を、何かで読んだ様な気がする。
が、その時の僕は、ただただ呆然と、その場に突っ立っていた。
意味が分からない。
人が消えるなんて事。
「……………………………………ッ!!?」
駄目だ。
何で。
よりによって、こんな時に。
僕は、亜空と、栞を、ベッドに………運ばないと……………いけない………の…………に…………
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コツリ、コツリ、と耳に障る音を響かせて、男は僕の周りを、ゆっくりと周る。
きっと、僕をいらだたせる為に、わざと足音を立てているのだろう。
「茉莉君。いよいよ実験を始める訳だけれど、何か言っておきたい事はあるかなぁ?」
語尾を上げて、猫なで声で、そう聞いてくる。
「………………」
「おやおや、無視するなんてひどいなぁ。」
「………………」
それでも無視を続ける。
出来る事なら、コイツとはもう一生喋りたくない。
「まぁそれもいいと思うよ。個人の意思は尊重されなければならないらしいからねぇ。黙秘権とかいうやつ?」
ククク、と意地の悪い笑いを語尾に被せる。
意思を尊重するのなら、まずはこの縄を解けよ。
医師は、にんまりと気味の悪い笑みを顔に張り付かせ、言葉を続けた。
「じゃあそろそろ始めようか。今回の実験が上手くいけば、君達の持つその忌々しい【能力】についての研究が、一気に進展する事は間違いない。」
「………………」
「だからそんな顔をしないでくれよ。よりすぐりの子を選んでおいたから、きっと君もすぐに気に入ると思うよ。新しい生活が。」
医師が、白い液体の入った注射を、僕の腕にした。
そして僕は、だんだんと意識が遠くなっていくのを感じた。
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