14話 ヒトリメ
「まずいって、何が?どうかしたの、頴娃君!?」
まさか魔道書の後遺症か何かか?
いや、それは考えにくいか。
意識もはっきりしているみたいだし、
それより何より、あの時のような禍々しい雰囲気が、微塵も感じられない。
「……………そうだとしても、………………何故今まで気付けなかった?」
頴娃君は、まだぶつぶつと呟きながら、何事かを考えている。
焦っているのがよく分かる。でもこの状況で、焦るような事が僕には見つけられない。
骨も、動く気配はないし…………何だ?
「…………………いや、まさか。…………………茉莉さんの【能力】は―――」
僕の【能力】?
僕の【能力】って言ったのか?今。
「茉莉さん!!!」
先程の発言について聞こうと思った矢先に、もの凄い勢いで頴娃君が話し掛けてきた。
「な、どうしたの?」
「いいですか、これから僕が言う事を、たとえ意味が分からなくても、黙って聞いて下さい。」
小声でかつ早口なので、聞き取りにくい。
突然何を言い出すんだと思ったが、少年の顔が余りにも真剣なので、僕は黙って頷く。
「まず、この紙を―――」
言いながら、一枚の紙切れを僕の手に押し付けてくる。
その紙には、僕を始め、【此処】にいる人物の名前が書かれている。
何故こんな紙を持っていて、それを僕に渡して来るのか。
色々と聞きたい事はあったが、黙って聞くと約束した以上、僕はそれを無言で受け取った。
「それを、部屋に帰った後、無意識のうちに触れるような所に置いて下さい。無意識の内に、というのが重要です。」
事前の宣言通り、さっぱり意味が分からないが、頷く。
僕はその紙を、とりあえずポケットへとしまった。
それを確認し、小さく頷いた頴娃君は、話を再開する。
「おそらく【此処】には、【記憶を消す】、あるいは【記憶を書き換える】事が出来る【能力者】がいます。それに対抗するには、貴方の持つその【能りょ――」
そこまで言った所で、
図書館の支配者であり、
【人の心を視る】事の出来る【能力】と【代償】を持つ人物であり、
僕の友達でもある少年は、
忽然と、何の前触れもなく、まるで最初から居なかったかのように、
姿を消してしまった。