12話 壊れてしまったその部屋でー05
「ちょ、ちょっと待って!!」
「【此処】から出る」と、言い残して、そのまま去ろうとする頴娃君を慌てて引き止める。
「何ですか?」
「出るって、【此処】は出れるものなの?というか…………とにかく、ちょっと待ってよ!!」
「引き止めないで下さい。あんな事をしてしまって、本当なら、今貴方とここにいる事だって辛いんです。罪悪感に押し潰されそうで。」
逃げ出したい気持ちも分からなくはない。でもそれは。
「それは、ずるいんじゃないかな?」
「ずるい?」
ピクリと反応して、完全に体をこちらに向ける。
よかった。どうやら引き止められたようだ。
「ずるいとはどういう意味ですか?」
「だって、それは逃げるという事だろ?」
「逃げて………いません。」
「逃げてるじゃないか!!謝る事もせずに!!亜空や英知だって、ちゃんと謝って、話せば許してくれるよ!!」
「許してくれませんよ!!」
頴娃君の声が、少し熱気を帯びる。
「やってみないと、分からないじゃないか!!」
「分かります!!きっと皆、話せば許してくれますよ。上辺だけはね。でもきっと、心の底では僕を憎み続けるんです。僕はソレを視続ける事に、耐えられる程強くない………」
「だからそれが逃げてるって言ってるんだ!!」
頴娃君は、まだ何か言い返そうとしたが、やがて暗い顔になって言った。
「………そうですね。確かに僕は、逃げようとしています。」
そして、今にも泣きそうな顔で続ける。
「でも!!でも、それしか方法が無いじゃないですか!!傷つくのが嫌なら、触れ合わない事しか方法が無いじゃないですか!!」
「………それ以外にも、きっと方法はあるよ。」
「慰めはよして下さい。それがあるなら、僕はとっくに―――」
「……僕も一緒に探してあげるから。英知にも亜空にも、鞘香さんにも、僕も一緒に謝ってあげるから。」
「………でも、僕は。」
ついに頴娃君は、堪え切れずに泣き出してしまった。
そんな少年に、僕は、嘘くさくならないように、恥ずかしさを懸命にこらえながら、言葉を掛けた。
「あのね、もう一回くらいは、人を信じてもいいんじゃないかな?」