9話 壊れてしまったその部屋でー02
「…………無事ですか?」
少年は、低い、不安定な声で、言った。
掠れていて、聞き取りにくい。
「…………僕は無事だよ、とりあえず。」
いつでも咄嗟に動けるように、警戒を維持したまま答える。
「……………………そうですか。そこに倒れている亜空さんは?」
本人も言っていたように、どちらかと言えば無事ではないのだけれど。
それを正直に答えるのは、どうしても抵抗がある。
亜空が戦力外になったのをいい事に、さらに何らかの攻撃を加えられたらひとたまりもない。
僕の体だって―――亜空ほどではないにしろ、動くのも正直つらいくらいには―――ぼろぼろなのだ。
どう答えたものか考えていると、少年は頷いて言った。
「そうですか、一応、無事は無事なんですね。よかった。」
しまった。本当に学ばないな、僕は。
頴娃君には【能力】があるんだから、隠し通せるような事でもないだろうに。
でも今、よかった、って言わなかったか?さっきから雰囲気もおかしいし、少しくらいは信用してもいいのかもしれない。
いや、駄目だ。もう裏切られるのは嫌だ。
「……………………。…………そんなに警戒しないで下さい。といっても無理でしょうね。残念ながら。………………信じてもらえる、もらえないは別にして、一応言っておくと、僕にはもう戦う意思はありません。」
信、じて、いい、のか?いや、でも、
そんな風に葛藤する僕を、しばらく見つめていた頴娃君は、やがて、ポツリと言った。
「今更………いや、今だから、ですか、いわゆる、言い訳的なものを、させて頂いてもいいですか?」