6話 チェックメイト
「………ふふ。僕が、貴方たちが空間を【縮め】るのを、黙って見ているとでも思ったんですか?今現在敵という立場にいるこの僕が。」
「…………。」
確かに、少し油断していた。
亜空の【能力】によって、さし当たっての脅威である骨を、完全ではないにしろ、無力化出来ていたから。
万が一にも、気を緩めてはいけない場面だった。
恐竜の骨は亜空に任せて、僕だけでも、頴娃君に注意を向けておくべきだった。
……などと反省しても、もはや手遅れだけど。
「おい茉莉!!どうなってる!?っくそ!!何で【縮め】られない!?」
………もしかして、亜空の奴、頴娃君の事が見えていないのか?
そこまで消耗してしまっているのか?
亜空のいる位置と、頴娃君のいる位置は、軽く5メートルは離れているのに。
という事は、骨は!?見えているのか!?
慌てて見ると、骨と亜空の間は、10メートル程開いていた。
見えている………と思いたい。見えていてくれ。
でも、見えていたとしても、このままでは―――
「もう、手遅れですよ。」
考えないようにしていた言葉を、頴娃君が引き継ぐ。
そして、黒衣の少年は、禍々しい光を放つ本を振り上げた。
それに呼応して、骨の足が、ぐい、と持ち上がる。
「っっ亜空!!!」
僕の悲痛な声に反応し、咄嗟に空間を【広げる】亜空。
5分前までは、骨の位置の空間を正確に【広げ】ていたが、今のアレは明らかに当てずっぽうだった。
偶々骨の位置と重なったから良かったものの、そう何度も偶然が続く訳がない。
「……もう足掻いても無駄ですよ?亜空さんも限界みたいですし。」
冷淡に、そう言い放つ少年。
ある種、高揚した表情で、さらに言葉を続ける。
「茉莉さん。だから言ったでしょう?貴方は、魔道書の【能力】の強さを、過小評価し過ぎたんです。そしてこれで―――」
言いながら腕を持ち上げ、
「チェックメイトです。」
振り下ろした。
「…………………?」
振り下ろしていなかった。
否、振り下ろせなかったのか。
少年の振り上げた手を、誰かの手が掴んで、支えている。
支えた手の持ち主は、少年に対して、静かな口調でこう告げた。
「まぁ確かに、チェックメイトだったね。君の、だけど。………どうやら今回は、私の方が一枚上手だったようだ。」