20話 偽物、本物−02
「先程から、偽物だの本物だの言っていますが、その認識からして、間違っているんですよ。」
さっきまでとは微妙に声の質が変わっている。
余裕を取り戻したのだろうか。
「そもそも、【ネクロノミコン】というのは―――」
そして、何か知らんが語り始めた。
…………なるほど。
正直、時間を稼げたという英知の発言の意味が分からなかったが、こういう事か。
そういう風に煽れば、語り出すとふんだのだろう。
…………………やっぱりこの二人、どこか似てるよなぁ。
「【ネクロノミコン】。【死者の書】と言われたりする本ですが、本当に存在するか否かは不明です。僕はすると信じていますけどね。そもそも、【ネクロノミコン】というのは、アメリカの怪奇作家、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの作品である、【クトゥルフ神話】の中に出てくる魔道書です。……………何を言ってるか分からないって顔ですね、茉莉さん。もう少し多方面の知識を蓄えてはいかがですか?…………まあ、分かりやすくいうと、作中作の本です。作中作くらい分かりますよね?つまり存在しない本。とされています。」
……………よく分からない。
英知は分かっているみたいだけど。
つまり結局は、無い、という事か?
いや、でも、今持っている本は?
それに、アルなんとかの事もあるし。
語り始めた頴娃君は止まらない。
「しかし、作中作でありながらも、その魅力に取り付かれた熱狂的なファンが、幾度も再現を試みています。1973年にはアウルズウィック・プレスが、1993年にはジョージ・ヘイが、2004年にはドナルド・タイスンが、それぞれがそれぞれの思惑の元、偉大なる魔道書の復元を試みた訳です。」
…………………どうしよう。何を言っているのか、さっぱり全然分からない。
ん、というか、もの凄い記憶力だな。
好きこそ物の何とやら、か?……ちょっと違うか。
「そして、今僕が持っているのが、プレスが記した【アル・アジフ】という訳です!!」
堂々と、頴娃君はそう言い切った。
ドドーンという効果音が聞こえてきそうだ。
………けど、僕はやはり意味が分からなくて呆然としていた。
頴娃君は、そんな僕の反応を見て少し気分を害したらしい、不機嫌な声で付け足すように言った。
「つまり、コレは偽物であり、本物でもある本。魔道書としては、充分すぎる力を備えているんですよ!!」
「ちょっと待て。」
頴娃君をさえぎるように、英知が言葉を挟んだ。




