5話 栞の講義ー04
「一向に前に進まない研究に―――私はこれは本気でどうかと思うんだが―――医者はついにサジを投げた。そして、医者がサジを投げたと分かると、今度は政府が強行手段に踏み切った。
何だと思う?ありがちでくだらない決断だよ。
うん、そうだ。患者を隔離したんだね。
始めの一ヶ月ほどは、それで上手くいったかに見えた。でも、そんな事はまったく意味をなさなかった
。
その理由は、大きく分けて二つある。
一つは、患者の数が増えすぎて、収容する場所が足りなくなった事。これは単純なようで、なかなか深刻な問題だよ。取るに足らない些細な症状の患者まで、政府は次から次へと隔離していった。
その結果、次第に魔女狩りのような状況になって来たんだ。
人よりほんの少し優れている。
人と少し違うだけの人まで、患者として収容されていった。
二つ目、こちらの方により政府は辟易したようだね。
強い能力を持った者を、閉じ込める事など、元から不可能だということだ。
各地で脱走事件が相次ぎ、隔離病棟はその機能をまったく果たさなくなった。
いくつか例を挙げてみようか。
・人の心を操る能力と引き換えに、人間はもちろん、動物や植物、生き物全てに嫌われるようになった能力者は、看守を操って、堂々と脱走した。
・さっきの定義に出てきた男は、発現した自分の能力に磨きをかけ、病棟の警備の綻びを【視て】、夜中に脱出した。
とまぁ、挙げだしたらキリがないが、他にも様々な場所で脱走事件が起こった。
その結果、政府の隔離計画は見事に頓挫した」