19話 偽物、本物−01
「今更言い逃れはみっともないぜ?」
「言い逃れも何も、本当に違いますからね。」
平静を装おうとしているが、装いきれていない。
言葉に動揺が混じっている。
「は。あのな、【見】えなくてもそれくらい分かるんだぜ?」
対照的に英知には、どことなく余裕らしきものが見えてきた。
何だかんだいっても、やはり緊張していたのだろう。
「…………さっきも言いましたが、それが分かった所で何だというんですか?」
さすがに誤魔化し切れないと判断したのだろう。
遠回しにではあるが、頴娃君は認めた。
「いや、助かったよ。もし本物だったら、どうしようかと思ってたからな。」
「英知、さっきから気になってたんだけど、【ネクロ……】何とか、とか【アル………】何とか、とか、って何?」
このままでは僕だけ置いてけぼりになりそうだったし、どうしても気になったので聞いてみる。
「何だ、知らないのか?茉莉。」
と言いながら振り向く英知。
背中を見せたら危ないと思ったが、
頴娃君は、黙って英知の背中を見ている。
まだ動揺が収まっていないのだろうか。
英知の自身の根拠を、考えているのかもしれない。
目が、「何か思いついたか?」と聞いてくる。
僕は無言で、微かに首を横に振った。
それを見て英知は微かに頷き、口パクで、「とりあえず時間を稼ごう。」と言うと、体の向きを戻した。
「【ネクロノミコン】っていうのは、簡単に言えば魔道書だ。それで、頴娃が今持ってる、【アル・アジフ】っていうのは、それのレプリカ、つまりパチモンだな。おそるるにたらず、って訳さ。」
またも挑発するような事を言う。
本当に恐れる必要は無いのか?
さっきまでの事を考えると、そんな事はないような気がするけど。
ふふふふふ、と、頴娃君が笑い出す。
「どんな秘策があるのかと思いきや。心配して損しましたよ。」
「どういう事だ?」
「あはは、ですから、全然認識が甘いんです。」
「強がりは止めろよ、だってそれ、レプリカだろ?」
頴娃君は、おかしくてたまらないらしく、腹を抱えて笑い始めた。
不安になって英知を見ると、
「…………はぁ、やれやれ。とりあえず、時間稼ぎは成功みたいだ。…………とりあえずは、な。」
小声で、返事とも、独り言ともとれる言葉が返ってきた。