18話 散らばる思考
頴娃君の【代償】を想像するに当たって、まず考えなければいけないのはもちろん【能力】の事だろう。
さっき………いや、かなり前から気にはなっていたが、英知も、それから頴娃君本人も、
【能力】の事を、人の心を【読む】のではなく、【見る】、と表現している。
最初はそんなのどうでもいい違いだと思っていたが、そうではないだろう。
どうでもいい違いなら、あんなにあからさまな言い方はしない。
明らかに意図的に、英知は【見る】事を強調していたのだから。
【見る】という事と、【読む】という事はどう違うだろう。
結局はどちらも、相手の考えている事を知る事が出来る点では同じだが。
………知るまでの過程が違う?
そうかも知れない。
【読む】というのは、其処にあるものを、文字通り読むのだろう。
それが今回は、人の心だというだけで。
対して、【見る】だとどうなるか。
あくまで推測だが、見えてしまうんじゃないか?
読むは自分から意図しての行動だから、もし読みたくなければ眺めていればいい。
文字を模様に変換するのは、想像するより遥かに簡単なのだから。
―――だから、頴娃君の【能力】は、人の心を【見る】んじゃなくて【見えて】しまう事じゃないのか?
―――そして、それならば、僕が今まで【能力】だと考えていたものはむしろ【代償】の側じゃないか?
―――さらに、それが【代償】だとすると、骨を動かす、すなわち【何かを動かす】というのが頴娃君の本当の【能力】じゃ―――
待て。待て。
話を飛躍させすぎだ。それも変な方向に。
何の確証もないのに、このまま思考を続けても、泥沼に嵌るだけだ。
いや、むしろもう嵌っているのかもしれない。
何だか考えが纏まらない。
正しい方向に進んでいるのかも分からない。
――――あぁ、なんだか頭が重い。
考えるという事が、こんなに難しい事だったなんて。
少しだけ。
そう、少しだけ頭を休ませようと、僕は、今まで話半分に聞いていた二人の会話に、意識を傾ける事にした。