16話 駆け引きー04
それで、だ。
水を千寿さんから得られるとしても、まだ問題がいくつもあるな。
1、千寿さんが水を用意したとして、それをどう掛けるか。
雨を降らせる事が出来るなら、これはさほど問題ではないように思える。その雨が掛かる位置に骨を誘導してやればいいんだから。
2、骨をどうその場所まで誘導するか。
1にも関係してくるけど、これは千寿さんの【能力】によるな。室内でも降らせる事が出来るのなら、この問題は有って無いようなものだけど…………いや、あまり楽観視はしない方がいいだろう。かといって、室外にあの骨を連れ出すとなると、これはかなりやっかいな話になってくるな。あのサイズのドアを、骨が通れる筈もないし。それに動きもめちゃくちゃ俊敏だから、誘導なんてものが成立するものなのか?第一、【此処】で屋外なんていったら、屋上しかないんだぞ?僕が知る限りでは。もしかしたら、英知の【能力】で何とか出来るのかもしれないし。…………………いったん、保留にしておこう。
3、英知の【能力】が何なのか?
今更言ってもしょうがないが、さっきこれだけでも聞いておくべきだった。作戦を考えるに当たって、この情報はかなり欲しい所だ。それによって、出来ることと出来ないことにかなりの差が出てくる。………どうする?英知の【能力】も勝手に想像して作戦を立てるか?………いや、それは違った時のリスクがあまりに大きい。が、英知は【代償】を持っているんだから、何らかの【能力】は持っている筈だ。それを生かさない手はない。生かさない手はないんだけど…………………くそっ!!コレも保留だ。
4、そもそも千寿さんとどうやって連絡を取るか
コレはなにげに一番難しい問題じゃないのか?この問題がクリアできないと、そもそも作戦も何もない。にも関わらず、外に出る方法が思いつかない。僕か英知が一度部屋を出るのが一番現実的なのだが、2でも少し触れた通り、あの骨の素早さは異常だ。あの大きさであの速さ、っておかしいだろ明らかに。まぁぼやいてても仕方ないんだけど。あの骨がある限りそれはほぼ不可能と言えるだろう。かといって他に方法があるかと言われると………ないんだよなぁ、残念ながら。
5、ドアの開閉の謎。
アレにどんな意味があるのか、結局やったのは英知なのか。その辺を考える必要があるな。
………英知の【能力】を予測する所から始めた方がよさそうだ。直接聞けたら一番楽なんだけど、今この状況で、それは出来ない相談だろう。
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「質問は以上ですか?では、調べて分かった事を伺いましょう。」
少年は緩やかに切り出した。
先程までの沈黙など、まるでなかったかのように平素な声で。
「おいおい、自分で話を切っておいてよく言うぜ。」
「答える必要がないからです。」
「それはお前が決める事じゃないな。」
「いいえ。僕が決める事です。繰り返す事になりますが、貴方は自分の立場というものをもっと理解するべきです。」
頴娃君の背後に佇む骨が、存在を誇示するかのように大きく震える。
それを見ても英知は動じず―――内心どうかは知らないが、僕からはそう見える―――あくまで純粋な話し合いに持ち込もうとする。
「なら俺も話さないまでだな。」
「っ!!ですから!!ああ!!何故貴方はそんなに!!」
英知を睨み付けるその目には、明らかな苛立ちが見える。
…………というか、本当に、英知は骨が怖くないのか?いくらなんでも挑発し過ぎだと思うんだけど。
「………………」
「………………」
またも暫しの沈黙が流れた後、結局折れたのは頴娃君の方だった。
「…………………仕方ありませんね。答えましょう。」
話すことに問題が無いと考えたのか。英知の頑固さに辟易したのか。それとも―――。
何にしろ一安心だ。頴娃君が力に頼る事を危惧していたが。
少々痛め付けた所で、口を割らないと判断してくれたのかもしれない。
「確かにこの本は、昨日千鶴子さんが見つけてくれた物です。」
「本当か?」
「嘘をつく事にどれだけの意味が?」
「ありすぎて困るくらいさ。」
「そこは信用して頂くしかありませんね。」
少し笑いを含んだ声。
「始めから信用してるとも。一応聞き返しただけだ。」
「そうですか、それは光栄です。―――それで、何か分かりましたか?」
英知は、ああ、と小さく頷いて、言う。
「その本の題名は―――」
またも、間。
「―――【ネクロノミコン】じゃないか?」