14話 駆け引きー02
考える。
考える。
この状況を切り抜ける、手段を。
そんなものは無いのかもしれない。
英知ですら何も思い着かなかったのだ。
探偵を自負する英知でさえ。
…いや、何も、ではないのか。
むしろ何かは思いついていたと考える方が正しいのだろう。
でないとあの10分間の意味が、まるで無くなる。
現に、「一手足りない」とも言っていたし。
一手。英知は少なくともそこまでは考えていたのだ。あと一つ何かがあればこの状況を解決できる所まで。
………一手か。何が足りない?人か?物か?それとも―――
―――いや、違う。今考えるべきはそこじゃない。
そこは最後でいい。まずは英知と同じ段階まで辿り着かなくては。
何か最後の一つが必要となる段階まで。
考えろ。
考えろ。
僕は【此処】へ来てから、考えるという事を余りしてこなかった。
というよりは、何者かに邪魔をされて、させてもらえなかったのだが。
鈍ってしまった頭を、回転させる必要がある。
今頼れるのは、自分しかいないのだから―――
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「どうしたんですか、質問があるのなら、早く言って下さい。無為に過ごせる時間を、僕は余り持ち合わせていませんので。」
頴娃君は、少し笑いを帯びた声で言う。
「今言うよ、そんなに焦るなって。………それにしても、お前は本当にややこしい言い回しが好きだな、頴娃。」
たいして英知は、落ち着いた声で返す。
状況は、こちらにとって相当悪いのに、普段と少しも変わらぬ声で。やはりそのあたりは大物だと思う。
「今のをややこしいと言うようでは、貴方の底も知れてますね。」
「別に今の言葉に対して言った訳じゃないさ。……お前さ、いつからそんな憎まれ口を叩くようになったんだ?」
「元からですよ。ただ、今までは声に出さなかっただけで。」
「心の中では思ってた?」
「そうです。」
「ふん。じゃ、何で声に出すようになったんだ?」
「……そんなのどうでもいいでしょう。気分ですよ。」
「その本のせいじゃないのか?」
英知がそう言った瞬間、頴娃君がごくわずかに動揺した。僕の感覚が間違っていなければ、だが。
「…………急に変なことを言わないで下さい。本のせい?何を言い出すかと思えば。頭は大丈夫ですか?」
しかし返す言葉には動揺など微塵も含まれていない。それどころか、さらに棘を多めに含ませた言葉を英知に返す。やはり思い違いか。
「頭は大丈夫だと思うぜ?それでさ、その本の題名だけど、恐らく―――」
「だから!!それがどうしたんですか!!そんな事に何の意味があります!?早く質問に移って下さい!!さっきも言ったように、僕は時間的余裕を余り備えていませんので。」
急に怒鳴る頴娃君。あの本の題名に、何かあるのか?
いや、単純に、英知が時間を引き延ばそうとしているのに気がついたのだろう。
「やれやれ。短気は損気だぜ?エセ支配者さん。」
「ふ。貴方だって、充分口が悪いと思いますけどね。迷探偵さん。」
そんな事を考えている場合ではないと分かっていたが、少し考える。
なるほど、「名」ではなく「迷」という事か?
そんなの口頭だけでは伝わらないんじゃないかとも思ったが、英知はそれこそ直ぐに理解したらしい。
「は。お互い様だな。」
と返していた。
この二人、実は気が合うのかもしれない。
「……で、質問だが―――」
英知はそこで一度言葉を切る。どの本の探偵の真似なんだろうか。いや、結構みんな似たようなものかもしれない。
「―――千鶴子さんと一番最近会ったのはいつだ?」