8話 図書館の支配者ー07
「最後にもう一度聞きます。僕に何か話すつもりは、ありますか?」
腕を振り上げた体制のまま聞く頴娃君。
「無いよ。少なくとも今のお前には。」
「そうですか。では―――――――」
言って、ゆらりと腕を振り下ろす。
「ちょ!!ちょっと!!待ってよ!!」
それを遮るように口を挟む。
どうにかこうにか間に合ったようで、頴娃君の手は止まっていた。
英知に何か考えがあるのかもと思って黙っていたが、もう限界だ。
何を考えているんだ英知は!!僕が止めていなければ本当に………!!
頴娃君だって!!
「どうしちゃったんだよ!!頴娃君!!本気か!?本気でそんな事をしようとしたのか!?冗談じゃ済まないかもしれないんだぞ!?怪我じゃ済まないかもしれないんだぞ!?」
僕が興奮して捲くし立てるのを、頴娃君は冷めた目で見ていた。
その目には、いつかの綺麗な瞳の輝きは、欠片ほども伺う事は出来なかった。
本当に。本当にどうしてしまったというんだ。
僕の話を黙って聞いていた頴娃君は、やがて静かな声で返した。
「…………………それで?」
「それで、って。」
「だから、それがどうしたんですか?別に僕だって冗談でこんな事しませんよ。」
「冗談じゃない、って、それじゃぁ……………」
「ああ、まぁ、殺すつもりはありませんよ、もちろん。骨を二三本折って、それで―――――」
「それを!!それを本当に何とも思わないのか!?どうしちゃったんだよ、頴娃君!!君はそんな子じゃ―――――」
「分かったような事を言わないでください!!」
突然大声を出す頴娃君。
「そんな子じゃない?違いますね。僕はもともとそういう性格です。貴方に僕の性格を決められたくは無い。そう、分かる筈がないんです。僕の気持ちなんて。」
「そんな――――そんな事あるもんか!!!君は!!」
そこで不意に、今まで黙っていた英知が口を開いた。
「……………茉莉、ちょっと落ち着け。なぁ頴娃!!ちょっとだけ時間をくれないか!!茉莉と二人で相談したい事がある!!」
「…………………少しなら待ってもいいですが、その後に今度こそ、【能力】について知っている事を話してもらいますよ。全て。」
「それも含めて相談したいんだよ。」
「…………………ちょっとというのは何分くらいですか?」
「20分程。」
「話になりません。5分です。」
「15分。」
「…10分です。それ以上は待てません。」
「分かった。よし、ちょっと来い、茉莉。」
言いながら、英知は部屋の端の方へと移動する。
頴娃君の【能力】の事を考えると、余り意味が無いように思うけど、僕もそれに従う。
そんな僕らに、後ろから頴娃君が声を掛けてきた。
「分かってると思いますが、もし逃げようとしたら――――」
手に持つ本が再び鈍く光る。
「あぁ、分かってるよ。」
英知は、背中を向けたまま返事をした。