4話 太古の意思ー03
「うふ、茉莉さん。そんな事を僕が許すわけがないでしょう?」
今まさに飛び込もうというタイミングで、急に僕の方へ体を向けて言う頴娃君。
「バレバレにも程がありますよ?あはは、それにしても酷い作戦だ。もう少し何かあるんじゃないですか?」
「…………いつから気付いていた?」
英知が問う。
どうやら、かなり冷静さを取り直したようだ。
「英知さん。あなた、演技の才能が全くありませんね。途中から、まったく怒りの質が変わりましたよ。」
そうだろうか?
贔屓目で見ているからかもしれないが、なかなか真にせまった演技だと思ったけど。
実際、半分以上、本気で怒ってただろうし。
「まぁ、そうですね。なかなか迫真の演技だと、実は僕も思いました。でも忘れたんですか?僕の【能力】。」
…………………しまった。
馬鹿か僕は。
完全に失念していた。
一ヶ月前の事とはいえ、そのぐらい覚えておけよ、自分。
「さっきと真逆の事を言いますけど、実際ね、凄いと思いますよ、英知さんの演技。僕も途中まで完全に騙されていました。感情をあそこまで隠せるなんて、英知さん、過去に何かそういう訓練でもしたんですか?」
…………………つまり、僕のせいか。
英知は上手くやってくれていたのに。
まったく、締まらないな。
というか、これからどうしよう。
正直、もうあまりいい案が浮かばない。
「ですから、そのままじっとしていて、僕の質問に答えて頂くのが、ベストの方法ですよ。…………おっと、動かないで下さい。つい手が――――――まぁ、本なんですけど―――――――滑って、踏み潰してしまうかもしれません。」
話の途中で、英知をけん制する事も忘れないあたり、ますます抜け目がない。
「ではまず茉莉さん、もう変な気を起こさない為にも、英知さんの横に移動してください。」
本をまるで武器のように構えながら、宣言する頴娃君。
……………………………………ここは、従うしか、ないか。
あくまで警戒を解かないようにしながら、英知の横に移動する。
僕のミスによって状況は悪化したと言ってもいいくらいだが、別に英知は責める様子も無く、状況を観察していた。