2話 太古の意思ー01
英知も頴娃君も何を言ってるんだ?
鞘香さんなんて何処にも…………………どこ………に………も?
そこに―――僕と英知の中心に―――鞘香さんは居た。
悲しそうな顔で。
困ったように、佇んでいた。
最初から………そこに立っていたのか?
「をを、気付いちゃった…………………ううん、気付いてくれたんだね。」
今にも泣き出しそうな顔と声で、鞘香さんが言った。
そこに居た事に、全く気付かなかった。いや、気付けなかったのか?
…………それにしても、英知が気付けないなんて事があるか?
「あ?え?鞘香、いつから?……………………いや。いや!!そうか!?もしかして!!最初から!?」
僕よりも英知の方が動揺が大きい。
「あはは、酷いですね、二人とも。気付いてあげなかったなんて。」
頴娃君が言う。
アレは………あの、黒衣の少年は、本当に頴娃君なのか?
さっきから、台詞にいちいち棘を感じる。
「鞘香!?鞘香!!あの!!俺!!…………………ごめん。」
憔悴仕切った様子で英知が鞘香さんに言った。
「あは、何が…………かな。謝るなんておかしいよ英知。ほら、茉莉君も困ってるじゃん。」
無理矢理笑おうとして、余計に崩れてしまう笑顔。
僕は、何も、言う事が出来なかった。
「鞘香、俺は。」
同じ様に崩れてしまいそうな顔で、英知が鞘香の肩を掴もうとする。
しかしその手は、何も掴めなかった。
それを見て、嬉しそうに笑う頴娃君。
本当に。本当に、アレは頴娃君なのだろうか。
「うふふ。ずれてますね。位置が。まだちゃんと認識できてないなんて。英知さん、本当に大切に思ってるんですか?鞘香さんの事。」
「あ、あの、私。ごめん!!」
微かに保っていた笑顔が、崩れそうになり、それを隠すように、鞘香さんは走って部屋を出て行ってしまった。
「鞘香!!」
しばらく呆然としていた英知だが、気を取り直し、慌てて後を追う。その斜め上から黒い巨大な物体が降り注ぐ。
何だアレ?
………………………………っっ!!
「おい!!英知!!上!!前!!危ない!!」
冷静さを失っている筈なのに、それでも英知は僕の声に機敏に反応して、咄嗟に後ろに飛んだ。
ずずんという重量音とともに、その物体は着地した。
「うふふ。貴方たちにはもう少し聞きたいことがありますから、行かせる訳には行きません。」
背後から聞こえる頴娃君の声。
そんな事よりも。
今目の前に有るコレは。
現実なのか?
僕達の目の前には、オブジェだった筈の恐竜の骨が、意思を持ったかのように立ちはだかっていた。