6章 「アル・アジフ」 1話 図書館の支配者ー06
「開けるけど、異論は?」
図書館のドアの前で立ち止まり、英知が聞いて来た。
「ないよ。」
「まぁお前にある訳ないか。罠の可能性もあるんだが……………言ってても仕方ないか、開けるぞ。」
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相変わらず広い。
そして相変わらず独特の雰囲気だ。
「ああ、やっと来たんですね。」
ふらりと、暗闇の奥から黒衣の少年が現れた。
闇と一体化、いや、闇を従えているように見えた。
…………………って、どういう感想を抱いてるんだ僕は。頴娃君に対して失礼すぎる。
「頴娃く………ふぐっ!!」
呼びかけようとした僕の口を、英知の手が塞いだ。何をするんだと抗議しようとしたが、英知は真剣な表情で図書館の奥を見ながら言った。
「気をつけろ、何か様子がおかしい。」
もう一度頴娃君の方を見る。今度は観察するように。
身体中から力が抜け切っているように、何だか全体的にだらんとしている。
俯いているので、表情を伺うことは出来なかった。
その様子はやはりどこか、闇を纏うという表現がしっくりとくる。
いつもと様子がまったく違う。
「もう少し早く来てくれるかと思ったんですけどね。何をしてたんですか?」
警戒を解かずに、英知が返事をする。
「どうだろうな。俺はそれより、頴娃が何をしてたのかの方がよっぽど気になるね。」
「あはは、僕の私生活なんて聞いても仕方ありませんよ?」
闇に紛れて、体が半分見えるか見えないかの位置に立つ頴娃君は、少し楽しそうに言った。
「ところで頴娃、ココに鞘香が来なかったか?」
ゆらりと身体を揺らして、答える頴娃君。
「来ましたね。来ましたけど、1時間程前に帰りましたよ?」
手に持った本が…………ほんの少し光った、か?
いや、多分見間違いだろう。
「そうか、それは困ったな。どこに行ったか知らないか?」
英知がそう聞くと、
実に。
実に。
楽しそうに、頴娃君は笑った。そして、ひとしきり笑って言った。
「ふふふ。本気で言ってるんですか、それ?英知さん。」
…………………そろそろ何か発言しないと、僕が居る事を忘れられそうな感じだが、特に言える様な事もないし、雰囲気でもないので、僕はさらに沈黙を続け、二人を見る。
「どういう意味だ?」
少し困惑気味に聞く英知。
頴娃君が左手に持っている本が、また一瞬光った気がする。
ゆるりと右手を上げ、僕らの中間を指差す頴娃君。
…………………ん?何だ?別に何もないけど?
何も無いと思ったんだけど、正面に見える英知は、何故か口をパクパクしている。
どうしたんだろう?
どうしたのか聞こうとした僕の声と、
英知の叫ぶ様な声と、
頴娃君の宣言するような声が、
「どうした、英知?」
「鞘香!?」
「貴方達が入って来た時から、ずっとそこに居たじゃないですか。」
重なり、よく分からない音になって、どこか虚ろに響いた。