12話 茉莉の回想ー02
「――――――――――なっ!!?」
開いた扉から飛び込んできた世界は、ただ、ただ、白かった。
手すりも、床も、
見渡す限りが白い。
なんだ?
なんなんだ?
振り返ると、扉は其処にしっかりとあり、その黒い色に、安心感を覚える。
淵の方まで歩いて行き、白い手すりに掴まり、改めて辺りを見回す。
やはり、見渡す限り真っ白だった。
景色というものが、無い。
世界が色を失ってしまったようだ。
でも僕の手は肌色で、いつの間にか横に立っていた英知の頭は黒色で。
僕たち二人は、この白い世界に混じり込んでしまった異物のようだ。
心配そうに見つめ込む英知の顔が見える。
嫌だ、怖い、何で、僕は、僕は―――――
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「えぇ、えぇ、はい。それで。えぇ。ありがとうございます。えぇ、はい。えぇ、では、そういう事で。」
妙に甲高い声が、鬱陶しい。
本来ならば白いのであろう白衣のようなものを着た男が、電話を終えた。
―――僕の主治医だ。
電話を終えた奴は、気持ち悪い笑みを顔に張り付かせたまま、コチラへ近付いて来る。
「茉莉君。研究を次の段階に進める許可が出たよ。君も嬉しいだろぉ?」
ふざけるな。
嬉しいはずがない。
こんな、モルモットみたいな扱いを受けて。
相変わらず僕は、後ろ手に拘束されていた。
目の端に見える注射痕が、自分で見てても痛々しい。しばらく立てば消えるとか言っているが、正直怪しいものだ。
僕が無言で睨みつけると、奴はにんまりと笑って続ける。
「聞きたいかい?実験がどういう風に進むのか。聞きたいだろう?」
自分が言いたいんだろう?いちいち聞いてくるな。
僕が無反応でいると、案の定奴は勝手に喋りだした。
塞ぐことの出来ない耳から、嫌でも奴の甲高い声が入ってくる。
「【能力の抑制】の研究を前から僕が研究していたのは知っているだろう?………君の血液をちょっと貰ってね。」
勝手に取っておいてよく言うよ。
「おぉ恐い目だねぇ………でまぁ【ソレ】をね、【血清】として、他の患者にも試してみる許可がやっと降りたってワケ。」
何だって!!止めろ!!そんな!!
拘束具がキシキシと軋む、が、それだけだった。
「ふふ、いい反応だねぇ。ま、君がどれだけ反対しようと?もう決まっちゃたんだなぁ、残念ながら。君はせいぜいそこで、自分が奇妙な【能力】をもってしまった事をくやむといいよ。」
高笑いを残して、男は部屋から出て行った。
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