5話 穿たれし穴
「やっぱりというか、案の定と言うか、………開かないな。やれやれ、フィクションはやっぱりフィクションか。」
扉に背をつけて座り込む僕たち。もう少し体力をつけないといけないな。
「…………はぁ、疲れた。………ところでさ、英知。聞いちゃいけないのかもしれないけど、その、君の【能力】でドアを開ける事はできないの?」
「いや、無理だ。そんな力技に向いた【能力】じゃない。ちなみにお前は?」
「無理だと思う。」
「だよなぁ。【能力】を使って開けるのなんて、最初に思いつくほうほ………って、え?【思う】?もし出来るんならそれで………あ、いや、悪い。詮索してる訳じゃないんだ。」
いいんじゃないのか?英知になら、本当の事を言っても。でも、信じてもらえるのか?こんな事。………でも英知ならもしかして。
「あのさ、僕の能力なんだけど………」
「何だよ改まって、別に気にしなくても…………と、真面目な話みたいだな。」
僕の目を見て、英知も真剣な表情になる。
「あの、さ、覚えてないんだ。自分の【能力】も【代償】も。信じられないと思うけど。」
そう、信じられる訳がないんだ、こんなこと。
自分の【能力】もしらないなんて。
そんな、壊れた玩具みたいな【能力者】なんて。
「信じるよ。」
「え?」
「だから、信じるよ。」
茶化す様子も無く、真面目に言い放つ英知。
「え、で、でも、【能力者】が【能力】を知らないなんて………」
「いいよ。何か理由があるんだろ?」
嬉しかった。
自分が今まで【此処】の皆に対して感じていた疎外感。
それが少し楽になった。
「んん?俺が信じる事を、信じてねー顔だな、ふむ。」
英知は、しばらく悩んだ後、やがて顔を上げて続ける。
「コレが―――」
いきなり上着を捲くり上げ、
「俺の【代償】だ。」
わき腹の辺りを指差す。
そこには、黒い……しみ、かな―――何かの模様にも見える―――があった。
「コレがな、痛むんだ。」
否、違う。それは―――穴、だ。
何かに魅せられる様に、僕の意識はソレに惹き付けられていく。