9話 栞の講義ー05
「さてと、一つずつ整理していこう。まず、混乱の元となっている、彼ら二人の【代償】から。
亜空君の方は、さっき君も直接【空間の部屋】で聞いたように【把握できない空間がある】事だ。君がどの程度理解しているのか分からないが、こうなった以上、私が知っている範囲でもっと詳しく言うと、【半径3メートル以内の物体が認識できない】事だ。まぁコレは、今どうなっているかは分からないんだが。【代償】はどうやら、本人の体調や気分なんかで、多少変化するみたいだからね。
この【代償】はね。私が知ってる中ではかなりやっかいな部類に入るね。
ん?何故かって?……………それは、【認識出来ない】だけで、実際は【ある】という事だよ。想像してみるといい、その【代償】を持ってドッジボールしてる自分を。ボールを受ける事なんて普通は出来ないだろう?もっと怖いのは、ボクシングなんかの、近接戦闘の場合だよ。敵意むき出しの相手が近くにいるというのに、それがまったく認識できないんだから。
む。その顔は、分かったみたいだね。
…………ん?ああなら何故木霊君の声が聞こえたのか?か。うん。もっともな質問だ。抜けてるように見えて、やっぱり君はしっかりしているみたいだね。茉莉君、君は。
それはね、【周りの壁に反射した声】が聞こえているんだ。だから、亜空君の耳元で何かを言っても、彼は分からない。
…………………いやいや、何を言ってるんだ君は。私がそんな事する筈ないじゃないか。いやいや、しないよ。想像で言ってるんだよ、想像で。
む。意外と信用ないんだな、私は。
…………………まぁいい。それで………
ん?ああ、物体が把握出来ないのなら、何故ドアを開けられるのか?か。
うん。いい質問だ。それはね、さっきも言ったように、【認識できない】だけで、実際には【ある】からだよ。
ん?さぁ?それは訓練したんじゃないか?色々と。実際、本人にしたら死活問題だからね。どうしても気になるのなら、後から本人に直接聞いてみるといい。」