8話 木霊の代償
気になって、栞の視線の先を追うと、其処に男が立っていた。
亜空の影に隠れて見えなかっただけのようで、どうやら始めから、そこに立っていたようだ。
「んー、だよな?……茉莉は心当たりとかあったりしな………………いよなぁ。」
と亜空が、少し困惑したように言った。
もちろんそんな場所に心当たりなんて無い…………………のだが、亜空のすぐ後ろに立っている彼は違うのだろうか?
僕がその事を指摘しようとすると、栞が目で静止してきた。ん?何で止めるんだよ?栞にその事を聞こうとすると、亜空の後ろにいた男が、
「○から、○○○○ってさっきから○ってる○ろ○?」
と、怒鳴った。何て言ったのかよく分からなかったが。
「うおおお!!木霊てめぇ!!何でそんなにドアから近い所に立ってるんだよ!!知ってるだろ!?俺の【代償】!!」
「ト○レに○こうと○もって○。それに、○こに○よ○とそ○○○僕の勝手○ろ?」
何だ?何が起こってるんだ?
どうやら、亜空は【代償】のせいで、木霊の姿が見えてなかったようだ。
じゃああっちの男の妙な喋り方は?
んん?よく分からない。少し情報が少なすぎる。
僕の困惑をよそに、木霊君と亜空は、何やら言い争っていた。
内心非常に困惑している僕に、一連の騒動を見て笑い転げていた栞が、救いの手をさしのべてくれた。
「あははは、そろそろ君の混乱を解消してあげようか。とその前に………」
そこで一度間を置き、いまだ言い争う二人に声を飛ばした。
「なあ木霊君!!言ってもいいかい?君の【代償】を!!」
栞がそう言うと、今まで本当に言い争っていたのかと疑いたくなるほど冷静な声で、木霊君は言った。
「別に○○よ。隠して○る○け○も○○し。それ○○ずれ○や○も○かるこ○○し。」
やはりその男が、何を言っているのかよく分からなかった。