7話 木霊と亜空
「よーす!!木霊ぁ、いるか?」
ピシャン、と元気よく扉を開く亜空。
今亜空が乱暴に開いたドアが、【言霊の部屋】の入り口だ。他の部屋と違い、木で出来ているのが異様だが、後は、横開きの普通のドアだった。
普通のドアなのだが、何故【此処】のドアは、ノブ付きだったり、引き戸だったり、統一感というものがないのだろうか。建物を建てた人は、いったい何を考えてこんな造りにしたのだろう。
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挨拶を済ませたという事で、取り敢えずの目的を達した僕たちは、これまでと同じように、部屋を辞そうとした。一度はそのまま別れる運びとなったのだが、栞の「後は、木霊君だな。」という発言を聞いて、気が変わったらしい。「俺もいくよ」と半ばむりやり僕たちと一緒に行くことになった。栞は少し不満そうな顔をした―――気がしたが―――すぐに了承した。
目的地に向かって歩いている最中、上機嫌に喋り続ける亜空と、それに応じる僕と栞。
彼の【代償】を聞き、止めようと思っても、少し意識して彼を見てしまう。見ている限りでは、よく分からない。
【把握できない空間がある】、か。どういう意味何だろう。
…………………止めよう、邪推だ。
そうして、部屋に着いた。木のドアであるという事意外は、全然他のドアと変わらないその外見に、少し違和感を覚えた。いや、がっかりしたというべきか。僕は、【言霊の部屋】というその名前から、もっと重厚なイメージを抱いていたのだ。始めの図書館が、印象的過ぎたのかもしれない。
部屋にたどり着くなり、亜空はドアを勢いよく開けた。
おいおい、そんなに力を入れたら、ドアが壊れるぞ?
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部屋を見回しながら、幾度か「木霊ぁ?」と呼んでいた亜空は、やがて溜め息を吐いて振り向いて、言った。
「っれ?おかしいな、いないぜ?なぁ栞、他に木霊のいそうな所に心当たりとかあるか?」
「いや、彼は特に縄張り意識が強いから、ここにいないとなると…………………」
そこで栞は、考え込むように視線を下げ、もう一度上げた所で、何故かにやりと笑い、答えた。
「ちょっと、分からないな。ふふ。」