6話 広い部屋ー02
「あぁそうだ茉莉、俺の能力の代償だけど、【把握できない空間がある】事だから。」
栞をしばらく睨んでいた亜空が、ふと思いついたかのような、気軽さで言った。
「…………………は?」
思わず、間の抜けた声を出してしまう。亜空は、今何を?僕の聞き間違いでなければ、【能力】を持つ者にとって、弱点ともいえる、【代償】を言ったような気がするが。それもあっさりと。
…………………聞き間違いか?いや………でも確かに。
「あっはっは!!おいおい茉莉!!何だよその顔は?」
僕の顔を見て大笑いする亜空。失礼な奴だ。でも今はそんな事より。
「…………………いや、だって、」
「だっても糞もねぇよ。いいか茉莉?俺みたいな、明らかに日常生活に支障が出るような事が【代償】の人間はな、先に言っといた方がいいんだよ。こんなのは。後から妙な誤解されるのも、胸糞悪りぃしな。」
曇りの無い笑顔で、言い放つ亜空。
「…………………」
分かるような、気が、しないでもない。だが、…………………【代償】だぞ?逆手に取られれば、すなわち即弱点へと通じる。【代償】何だぞ?その考え方は分かるが、肯定することは、僕には、出来ない。
「おいおい茉莉よぉ、そんなに深刻な顔するなって、俺だって、見ず知らずの人間に易々と話したりはしねぇよ。でもお前は、これからここで一緒に暮らす仲間だろ?だから、言うのさ!!ある種の信頼の証として。…………あ、でも、言わない人間の考えも分かるから、お前が妙な事を考える必要はねぇからな。つまり、変わりに自分の【代償】を…………………みたいなさ。」
「…………………」
む。確かに一理有る。一理有るんだが、でもしかし…………
「そんなに深刻に考える必要はないさ、茉莉君。彼はそういう性格なんだから。」
背後から栞が言う。
「そうだぜ茉莉。こういうのはオープンにいきたい、ってのが、俺の考えだからさ。」
「あ、ああ。分かった。」
そういう考え方も有るのかと、腑には落ちていないものの、納得は出来た。
「ところでさ、茉莉は自己紹介に来たとして、栞は何をしに来たんだよ?」
「んん?それはあれさ、茉莉君に【此処】を案内してあげていたのさ。」
「ふ〜ん、そうか?俺はてっきり、例の物の催促の方が本題だと思ったんだけど。…………まさかお前が人のために、ねぇ?」
「いや、気のせいだよ。そっちはついでだ。」
いつもと少しも変わらない平坦な声で答える栞。
そんな栞を、舐めるような目で見て、
「ふーん、ま、そういう事なら、それでいいんじゃね。」
と、視線を上に向けながら言う亜空。
もしかして、二人は仲が悪いのだろうか?と、僕は思った。