4章 空間を創る者 1話ー再来
「ふむ。次はどこに行こうかな。どこか希望はあるかい?茉莉君。」
希望と言われても困る。
一週間前から建物の中に居たとはいえ、感覚的には、今日始めて見て周る所なのだ。
「…………………どういう部屋があるのかな?栞。」
「む。そうか。失礼した。つい失念していた。…………………っっ!!」
何の脈絡も無く、急に栞がピクリとした。
「ちょ、栞。どうしたんだ?」
僕が聞くと、栞はすぐに顔を上げて言った。
「あら、何でもないよ。茉莉君。」
「…………………【あら】?」
もしかして。
「どうしたんですか?茉莉君。」
「…………………とりあえず、騙すつもりなら、口調をもう少しどうにかした方がいいと思うんだけど。」
「え、え?な、何のことかしら?…………あ、いや、えーと、何の事かな茉莉君。」
「え、まさか今さら取り繕えるとでも?」
見るからにおろおろしているが、それでも騙そうとする栞。もとい千鶴子さん。
「と、取り繕うって何の事かな?…………………何の事だい?」
もはや始めから騙す気など無いのではないかと、疑ってしまう。
「いや、とにかく。…………………もうバレてますよ?千鶴子さん。」
「何のことかしら?」
彼女がそう言ったあと、明らかに違う口調で、さらに言葉を重ねる栞。
「ほら、もうバレているぞ。……………だから、そろそろ、止めてくれ。」
「…………………もう!!何でばれるのかしら?」
本気で言っているのだろうか?
「…………………何でも何も。」
思わず、少しあきれ口調でつぶやいてしまった。
「あら!?理由がわかるの!?茉莉君!!今後のためにも、是非教えて欲しいわ!!」
本気でわかってないのか。
「いやだから…………………」
…………………待てよ。
………言わない方がよさそうな気がする。
「…………………すみません。やっぱり分かりません。勘違いでした。」
「そう?……………むー、何かみんな似たような反応するのよね、この質問をすると。」
そうか。考える事はみんな一緒、か。
「ち、千鶴子くん。そろそろ、っ!!」
うーむ、前の時は急だったから分からなかったけど、落ち着いてみると滑稽だなぁ、これ。
「ちょっと待って、栞。まだ要件を伝えてないし。」
「っ!!覚えてっ!!おきたまえっ。千鶴子君っ!!。」
「あはは。怖い怖い。じゃ、手短に話すわよ、茉莉君。次に行く場所が決まってないんなら、是非私の部屋に来るといいわ。歓迎するわよ。」
全然怖がってなさそうに言う、千鶴子さん。
「…………………っ!!っ!!」
対照的に、もはや声を出すのも辛そうな栞。
「…………………わかったから、取りあえず出ていってあげたら?…………………あとから怖そうだよ?」
「そう?じゃ、待ってるからね、茉莉君。」
彼女がそう言うと、栞の体がくにゃりと崩れる。
慌てて駆け寄ると、栞は下を向いたまま、くっくっく、と笑っていた。
怖い。怖いです栞さん。
「彼女には少しお灸を据える必要があるな。茉莉君!!次は予定を変更して、【映写室】へ行こうか!!」