表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/200

10話 茉莉と栞ー03

「む。そろそろお腹が空いたな。よし、次は食堂に行くとしようか。茉莉君。」


僕としても特に異論はないので、素直に頷く。

コツコツと、廊下に二人分の足音が響く。


建物の広さからは考えられない程に閑散とした独特な雰囲気にも、だんだん慣れてきた。

ここでの食事は、どういうシステムになっているのかは分からないが、注文した料理が、しばらく待つと、完成した状態で自動で出てくる。

誰かの【能力】を使用しているのか、機械に作らせているのか、詳細は分からない。

そしてそれが関係しているのかどうなのか、【食堂】だけやけに離れた場所にある。


コツコツ


この建物は、全体的に白を基調としている。

その白は、どこか病院の壁を想起させて、僕の精神をザワザワさせる。

今日は様々な人にあったせいで、僕の精神は、少し不安定になってしまっているようだ。


コツコツ


速く終わって欲しい。

この単調な景色の繰り返し。

あの嫌な薬の香りを、いやがおうにも思い出してしまう。


コツコツ


食堂が無駄に遠いと、いつも思う。

そう、無駄に遠い。

無駄に。無駄な…………………無駄な。

無駄な。僕は。無駄な。


コツ、カッツゥン


栞が豪快にこけた。おいおい、何もない廊下でこけるなよ。


…………………有り難かった。


危うく。また。僕は。

顔をしとどに打ったらしい栞は、額を抑えながら立ち上がり、微妙に恥ずかしそうな顔をして言った。


「む、茉莉君。今のは今すぐ記憶から抹消してくれたまえ。」


顔は恥ずかしそうだが、声は落ち着き払っている。

もしかして、僕の様子を見て、わざとこけたのだろうか。

いや、それはさすがに考えすぎだろう。僕を正気に戻すだけなら、こける必要は全くない。

…………………のか?さっきの僕は、正常に声が聞こえていたか?


彼女が今こけたのは、天然なのか、恣意的なのか。


どちらでもいい。


そんなのはどちらでもいい。

僕は今、彼女に感謝している。


僕は、栞に笑いかけ、今の事を記憶から抹消する事を誓った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ