5話 発明家と探偵の登場
「うをを!!ちょっとちょっと君!!それを水で洗ったら駄目だよ!!」
という悲鳴じみた女性の声で、僕は現実に引き戻された。
いつの間にか僕は、持って来たコーヒーメーカーを、水道で洗う構えに入っていた。
……………む。駄目だ駄目だ。また無意識の内に行動してしまった。
気を取り直して、このコーヒーメーカーを洗うとするか。
「うぇぇ!!ちょっとちょっと君!!だから駄目だって!!」
誰だろう。さっきから騒がしいなぁ。
「…………………」
とっとと洗ってしまおう。
「ぇぇぇ!!話を聞かない人がいるよ!!どうしよう英知【えいち】君!!あぁ!!あぁ!!だから駄目なんだ!!って!!」
騒がしい声の女の子が、今にも水が滴ろうとしたコーヒーメーカーを、僕から無理矢理引き剥がした。
「…………………っ何を!!」
「ちょっと君ねぇ!!人の話を聞かないにも程があるんじゃないかな!?」
目の前で、とても憤慨している女の子がいた。
「あ、ああ、ごめん。」
何故だろう。何故さっき僕は、この女の子の言った事を無視したんだろう。確か、コーヒーメーカーを水に漬けるなとか何とか。
「そんなにピリピリするなって鞘香。その男、見た事ない顔だぜ?っていう事はアレだよ。彼は例の【転校生君】だ。ん?あれ?転校生ってのはおかしいか。でもまあ、使いやすい記号だから、この際使っちまう事にするか。っていう事はアレだよ。鞘香の【代償】で、聞こえにくく成ってたって事だろ。」
コーヒーメーカーを大事そうに抱えた女の子の後ろにいた、どこか斜に構えた男が口を挟んだ。僕が呆気に取られていると、さらにその男は言葉を連ねる。
「っていう事はアレだよ、きっと聞こえていたけど気付かなかっただけだぜ。っていう事は………」
っていう事はアレだよというのはこの男の口癖だろうか。だとすれば、何というか、鬱陶しい口癖だな。恍惚として、何か自分の世界に入ってしまっているように見える。放っておけばいつまでも喋り続けそうなその男を取りあえず無視して、鞘香らしき女の子に離しかけた。