表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/200

「ここまでくれば大丈夫だろう」

僕たちが【此処】と呼んでいた場所から、ゆうに3キロは離れた位置まで来ると、やっと足を止めて栞が言った。

栞と英知は比較的涼しげな顔をしているが、僕と頴娃君、それにフォリスは肩で息をしていた。


僕はあらためて【此処】を見上げる。空中に浮くその建物は、ここからでもよく見えた。

「あれも、栞が浮かしてるのか?」

巨大な建物を指差して、信じられない思いを込めて僕は聞いた。

「私の【能力】は、溜めておけるんだ」

「ほー、そういう【能力】は始めて聞いたな、それにしてもあんなもんを浮かしちまうなんてお前の【能力】も大概だな」

「……【能力】の強さは、失ったものの大きさに、基本的には比例するらしいですからね。栞さんの【能力】がそれほど強いという事は……」

英知の関心するような声に、頴娃君が続いた。言ってて気まずくなったのか、その言葉は尻すぼみになったが。


「……そうだよ。私の【代償】は、【親しい人間の良心】だ」

「だった、じゃなくてか?」

英知がそう聞いた。

「そうだ。それは現在進行形の【代償】だ。………だから、私と親しくなるのは止めた方がいい。そんな心配もないか」

「断る。俺はあんな風にはならねぇよ」

「……というか、茉莉さんの近くに居れば大丈夫な気もしますけどね」

頴娃君が、僕を見ながら言う。

「そうだよ栞。君の【代償】は僕が必ず消してあげるよ」



「で?これからどうするんだ?何も案がないのなら、俺は他のみんなを探しに行こうと思うんだが」

「具体的な案もないのにですか?どこにいるか分かってないんでしょう?」

「そうだけど!!」

「すぐに殺されたりはしないと思いますよ。強力な【能力】を持つ人は、研究材料として、利用価値があるみたいですから、ね」

「でも安全とも限らないだろ!!………お前はどうなんだフォリス?いつまで黙ってるつもりだよ」

「……………私は。私は、今はあの人から離れたい。怖いから。信用できないから。……………今はまだ」

やっと喋ったと思ったら、フォリスから怖い人間だから離れたいと言われた。かなりショックだが、仕方ないかもしれない。剥き出しの殺気を向けてしまったのだから。

「茉莉さんは、あなたが今思ってるような人じゃないですよ」

「分かってるわ。だけど今はどうしても怖いの」

「おいおい茉莉。嫌われたもんだな、お前。何やったんだよ」

「それは……」

言いよどむと、頴娃君が助け舟を出してくれた。

「まあまあ。それよりも、二手に分かれるのは僕も賛成です。全員固まっていても、捕まえてくれと言っているようなものですからね」

「それはいいけどよ、連絡は取れるようにしておきたい所だな」

「……そういう事なら、コレを渡しておこう」

栞が、英知に何かを渡した。

「お?これ携帯じゃん?何でこんなの持ってるんだ?」

「………お守り、みたいなものだ」

「大事なものなのか?それじゃ受け取れねーよ」

「いや、いい。友達にはなれないが、君たちには感謝している。受け取ってくれ。次にあった時に返してもらえればいい」



――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――



英知たちと別れて暫らく経つと、栞が聞いてきた。

「ねぇ茉莉君。一つ君に相談があるのだが」

そのいつもと変わらない問いかけには、きっと何か意味があるのだろう。

【此処】から出ても何も変わらないと言いたいのか。

自分がもう完全に立ち直った事を暗に伝えたいのか。

正確な所は分からなかったけれど、僕もいつものように返した。

「うん。何かな?」

「これから、どうしようか?」

「栞はどうしたい?」

「君が決めてくれ、茉莉君」

「そうだなあ。とりあえず一休みしたいかな」

「ふふ。それは私の質問の意図とはかなりずれてるよ。でもまあ、私も賛成かな。何だかとても疲れたんだよ、茉莉君」

「僕もだよ」


「関係ない事を一つ聞くけれど、私の喋り方、おかしくないかな?」

「…………おかしいの基準にもよると思うけど、何もおかしくないよ」

「女らしくないとは、思わないかい?」

「今更だね。君がそういう喋り方をする事は、僕の中ではもう当たり前になってるよ。それに、どんな喋り方でも、栞は栞だよ」

「……………一応聞いておくが、そのセリフは素で言ってるのか?」

「何が?」

「何でもないよ」

急に黙ってしまった栞と共に、何も無い道を歩いていく。

ここは何処なのだろう。そもそも日本なのだろうか?

どこか休める所に着くまで、どのくらいの時間が掛かるか分からないのに、このまま栞が喋ってくれなかったら困るなあ。と僕は思った。






最後まで読んで下さって本当にありがとうございます。


実の所、最初はこんなに長くなる予定では無かったのですが、気付けばなんと全200話にもなってしまいました。


冒頭に、物語の核心部分を持ってきたのは、京極夏彦さんの【女郎蜘蛛の理】を意識したのですが、全然上手くいきませんでした。難しいです。力不足です。


この終わり方なら予想はつくかと思いますが、続編を書きたいなと思っています。主人公はもちろん茉莉と栞です。次回はあとほんの少しだけ明るい雰囲気になると思います。それにあたり、現時点での各人の【能力】と【代償】、【現時点の状況】を纏めたいと思います。


茉莉まつり

能力ー他人の能力を強化する事ができる。アル・アジフに触った事で強化され、能力を弱める事も出来るようになった。

代償ー自分の意思に関わらず、能力者を引き寄せる。トラブルメーカー体質。

脱出後栞と行動を共にしている。


しおり

能力ー物を浮かせる?能力の蓄積が可能。詳細不明。

代償ー親しい人の良心。家族ではなく親しい人。

脱出後茉莉と行動を共にしている。


英知えいち

能力ー他人を支配する?発動には様々な条件がある。詳細不明。

代償ー体に穴?詳細不明。

鞘香達を探すために手がかりを探している。


・フォリス(ふぉりす)

能力ードアを作る?詳細不明。

代償ー現時点では不明。

とりあえず英知と頴娃と行動を共にしている。


亜空あくう

能力ー空間を広げる事ができる。

代償ー把握出来ない空間がある。

不明。


鞘香さやか

能力ー物を作る。詳細不明。

代償ー作る度に見合った存在感を失う。

不明。


千鶴子ちづこ

能力ー他人を操る。詳細不明。

代償ー現時点では不明

不明


千寿せんじゅ

能力ー未来を選ぶ事ができる。アル・アジフに触れた事で強化され、かなり先の未来まで選ぶ事ができるようになった。

代償ー現時点では不明


頴娃えい

能力ー他人の心を視る事ができる。アル・アジフに触れた事で強化され、人の気配を探れるまでになった。

代償ー同上。

英知、フォリスと行動を共にしている。


木霊?(こだま?)

能力ー他人の記憶をいじる事ができる。詳細不明。

代償ー現時点では不明。


――――――――――


私は物語独特の理不尽さが、嫌いで、好きです。

タイミングを計っていたかのような都合のいい登場。

意味もなく自分の力を話す敵役。

完全無欠のハッピーエンド。

などです。嫌いだけど、好きなので、おかしくないように見えるように、都合よく登場させましたし、おかしくないように見えるように自分の能力を話させました。

おかしくないように見えていればいいのですが。


――――――――――


完全なる悪を登場させたいです。ほとんどの物語において、悪役にも仕方のない事情というものがあります。今回でいう栞の父親みたいな、です。そんなのではない、悪たる悪を書いてみたいです。

ちなみにそういう見方でいくと、栞の父親は最初に出てくる悪の四天王みたいな感じです。最初に主人公にやられていろいろあって一番強くなって、主人公にやたらとライバル意識を燃やしたあげく、結局最後に主人公を「お前を俺以外が倒すなんて許せねえんだ」とか何とか言いながら助けるみたいな位置です。まあ私の書く物語では助けないと思いますけど。分かりません。


――――――――――


一言感想をいただけると本当に嬉しいです。一番好きなキャラとか書いてくれるともっと嬉しいです。


長い長い後書きを読んで下さって、改めてありがとうございます。よければこれからも茉莉と栞の物語を読んでやって下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ