序ー02
冗談だと思った。そんなものは冗談だ、くだらない、と。
またいつもの悪ふざけだと思ったし、そうである事を心の底から望んだ。
そうでなければならない。
これは、冗談でなければならないのだ。
もし違うのならば、彼女は―――。
彼女は、時々答えようのない質問をして、僕を困らせる。
今回もその類だと思った。思おうとした。
だけど、彼女の瞳はこれ以上ない程に澄んでいて、迷いを全く感じさせない。
それで僕は、これが冗談ではない事を、認めざるを得なくなったのだ。
そうか。
ついに。
彼女も。
―――彼女までも、狂ってしまったのだろうか。
いいや、そんな筈はない。
だって彼女は。彼女は。
「どうしたんだい?ぼーっとして。いつになく間抜けづらだよ。新手の顔芸なんだとしたら、大して面白くもないから、即刻やめてくれないかい?」
ああ。よかった。いつもの彼女だ。
彼女は狂ってしまった訳ではなかったのだ。
「ああ、ごめんごめん。君が急に変な事を言い出すから。それにしても、何気にさらっと酷いことを言うね、栞」
「酷くはないさ。本当の事だから。」
「いや、それが酷いんだよ。ところで栞―――」
ん?と首を傾げる栞。長い髪がさらりと横に流れる。いつ見ても綺麗な髪だ………じゃなくって。
「んん?また顔芸かい?止めときなよ。君の顔芸のスキルの無さは哀しい程だよ。」
「いやいや違うよ!!顔芸のスキルとか欲しくもないし。というか、何で今日はそんなに攻撃的なのさ。」
―――やはり。
やはり、狂い始めているのだろうか。
この世界と同じように、彼女もまた。
「じゃあ何だい?君の顔がクルリクルリと変わるから、私もそういう風に誤解してしまうんだよ?」
「いや、だから―――」
そうか。もう先程の彼女の発言には触れないで、このまま流してしまおう。とそう考えた矢先に、彼女によってあっさりと話題は戻された。
「あのね。何でも無いのなら私の相談に乗っておくれよ。真面目に言ってるんだよ?」
やはり。
彼女は。
ゆるやかに、しっかりと。
―――狂い始めて。いるのだろうか。
「私、一度死んでみようと思うんだけど。」