20話 曲げない意志
「そんな馬鹿な。アイツはお前を殺そうとしてたんだぞ栞!?」
「そうだよ栞。脅されてるのかもしれないけど、もう奴を庇う必要なんてないんだ。そんな嘘までついて」
英知の言葉に、僕も自分の希望を微妙にのせつつ言う。
「嘘なんかじゃない。あいつは……あの人は本当に、私のお父さんなの」
「…………本当だったとして、親があそこまで殺意を剥き出しになれるのか?子供に対して。……………ま、なれるかもしれないか」
自分で疑問に答えを出す英知。なれるかもしれないと言っている時、遠くを見ているように見えた。昔両親と何かあったのだろうか。
「…もしかして、アイツに記憶を刷り込まれてるんじゃないのか?栞?」
一つ思いついた事を言ってみた。【此処】という大きな記憶を、複数人に同時に作れるくらいだから、それもまた可能かもしれないと思った。
「そんな訳ない!!本当なの!!だってお父さんが【良心】を無くしたのは、私のせいだもの!!」
「さっきから要領を得ないな。お前のせいだってんなら、その理由を言ってくれ」
「………私の【代償】だから」
「ん?【能力】じゃなくてか?」
「そうよ」
「あーなんかあれだな。今更だけどお前のその喋り方は……何というか………その……気持ち悪いな」
「話を逸らさないでよ。お父さんを殺すのを止めてくれるの!?どうなの!?」
「それとこれとは別だな。それによく考えてみろよ栞。今アイツを殺しておかないと、結局お前も殺される事になるんだぜ?栞?」
「それでもよ!!」
「………話にならないな。とりあえずお前がどれほど反対しようと、俺はアイツを殺す。そうしないと昂ぶりも収まらないしな」
「この外道!!」
「………なんだと?言うに事かいて。…………いいか栞俺はお前の味方なんだぞ?今の所は、だけどな」
不穏な空気になりつつある。僕はとにかく間に割って入る事にした。
「ちょっと待ってくれ!!その【代償】うんぬんの所も含めて記憶を作られている可能性はないのか?」
「残念ですが、その可能性はありませんね」
否定の声は、後ろで黙って聞いていた少年が発した。
「栞さんの心が【視え】ない理由がようやく分かりました。自分を守るために、もう一人の自分を作っていたんですね。いわば簡易的な二重人格です」
「なんだよ頴娃。じゃあこの変な喋り方の栞は、作られた方だって言うのか?」
気が相当立っているのか、英知の頴娃君を見る目が、少し睨むようになっている。
「いえ、今表に出ているのが、本来の栞さんでしょう。いつもの毅然とした方が、作られた人格です」
「そうか。で?それがどうかしたか?」
「ええ、ですから、あの男が栞さんの父親である事は間違いないでしょう」
「……………なあ英知。僕からも頼むよ。殺すのは止めてくれないか?」
「自分が何を言ってるか分かってるか、茉莉。お前だってアイツを憎んでいたみたいじゃないか!?」
「そうだけど。それでも、だよ」
「はっ!!お前は本当の本当に呆れたお人よしだな!!茉莉!!」
次元の違う存在となった英知が睨みつけてくる。
僕の足が、少しでも気をぬけば震えようと構えている。
英知の目をみつめているのが怖い。本当に怖い。
でも、一度目を逸らしてしまったら、もう二度と見る事が出来ない事は分かっていたから、僕はありったけの勇気を振り絞って英知の目を訴えるように見つめ続けた。
「………チッ、わーかったわかった。俺はお前のそういう所が気に入ってるんだったよ。だけど【能力】を解く前に、あいつから銃だけは取り上げておけ。そうだな、ついでに縛っちまうか」
やがて英知はそう言った。言ってくれた。