18話 予定外のモルモットたち
「ああああああああああああああ!!!!次から次へと!!何なんだお前たちは!!モルモットはモルモットらしくしてろよ!!栞!!どういう事だ!!何故こいつらが生きている!!」
英知たちの登場に、狂ったように叫び出す白衣の男。
自分の思い通りに物事が進まないのが、我慢ならないタイプのようだ。
栞を睨みつける目には、鬼気せまるものがある。
一方睨みつけられた栞は、へなへなと崩れ落ちてしまった。
何やらぶつぶつと呟いている。
やはりいつもの栞じゃない。いったいあの男に何を吹き込まれたのだろうか。
…………どうあれ、変な分析でもしていないと、僕自身混乱を抑える事が出来そうにない。
とにかく、英知も頴娃君も無事でよかった。本当によかった。
「おい!!何とか言えよ栞ちゃんよぉ!!」
さらに怒鳴る男。
「ごめんなさいすみません許してくださいもうしません…」
栞は、自分を庇うように両手を上げ、ひたすらに謝罪の言葉を重ねている。
何をそんなに怯えているのか。あの男に弱みでも握られているのか?そうかもしれない。そう考えれば、奴を手伝うような素振りなど納得が行く部分もある。
「大丈夫ですか?茉莉さん。ぎりぎりまで出るタイミングを伺おうと思っていたのですが、英知さんが飛び出しちゃって」
「俺が悪いみたいに言うなよ。あれがぎりぎりじゃなくて、他にどのタイミングがあるんだよ」
「栞さんは撃てなかったと思いますよ。あの男にどれだけ責められようとね」
「それでも弾みってものがあるだろう」
「まぁそれは否定しませんが。それより茉莉さん。どうやら無事に思い出せたみたいですね。あんな紙一枚では不安だったんですが」
頴娃君の質問に、僕は気になっていた事を聞いてみる事にした。
「そうなんだ。以前はあれほど解くのに苦労した奴の【能力】を、何故今回はあんなにあっさりと解けたんだろう」
聞いてから、僕は何を聞いているのだろうと思った。頴娃君だって、何でも知っている訳では無いのだ。彼のその【能力】から、つい勘違いしてしまうのだが。
しかし頴娃君は、落ち着いて答えた。
「恐らく茉莉さんも、あの本に触れたんじゃないですか?」
「え?そうだけど。何で?」
「そうなのか!?何だよー俺だけ仲間外れかよー」
「いや、触らない方がいいよ。仲間外れとかそんなの関係なしに」
「じゃあ茉莉も頴娃みたいになったのか?」
答えにくい事をさらりと聞いてくる英知。僕はあの本に取り込まれて、栞を殴ったのだ。他にもいろいろと。僕らが話しているのを、黙って聞いているフォリスにも、怖い思いをさせてしまった。答えあぐねていると、頴娃君が割って入った。
「今は悠長に話している時間が惜しいです。あの男の興味が、いつこちらに移るか分かりません」
頴娃君に言われて二人を見ると、白衣の男が一方的に栞をなじっていた。
いてもたってもいられず、止めに行こうとした僕の体を、英知の手が押さえつけた。
「本に触れたのなら、あなたの【能力】は強化されている筈です。とんでもなく強力に」
「でも僕の【能力】は」
「強化できるのなら、弱体化も出来ますよ。マイナス方向に強化すると考えればいいんです」
「…なるほど」
「おい何の話だよ。【能力】思い出したんなら、俺にも教えてくれよ茉莉」
「そうだね。いつかのお返しに――」
「あぁもう全部めんどくせぇな!!アイツらを殺したら、お前もじっくりと殺してやるよ!!そこで好きなだけ震えてろ!!」
白衣の男はひときわ大きな声で怒鳴り、懐に手を入れると、鈍く光るものを取り出した。
僕はそっち方面に明るくないが、あの銃が栞のもつそれより数倍強力であろう事は、その無骨さから容易に想像できた。
と、僕たちを庇うように、英知が一歩前に出た。
「おいちょっと英知――」
「まぁまぁ、俺に任せておけ、アイツは俺もマジでムカついてるんだ。【此処】の事しかり、栞やお前の事しかり」
何か考えがあるのか、そう言って英知は不敵に笑った。