17話 ふらつく銃口
これは何の冗談だろう。
全くタチの悪いジョークだ。
最高級に笑えない。
そんな事を考えていても、目の前の状況が変わる訳もないのに、僕の頭はくだらない事をぐるぐると考え続けていた。
どうしても、僕は目の前の光景が理解できなかった。
否、理解はしている。
ただ、信じたく無かったのだ。
栞が僕に対して銃を構えていた。
栞は体中で震えていて、銃口は一向に定まる気配がなく、狙いも何もあったものじゃないが、重要なのは「栞が僕を撃とうとしている」事だ。
「うっ!!動かないで!!」
栞が震える声で言った。
これほどまでに感情をむき出しにしている栞は、始めて見るかもしれない。
「………どういう事だよ栞」
途方に暮れた僕は、深く考えず、そう口にする。
「動かないで、って!!言っている、でしょう!?」
栞の構える銃は、未だに上下左右に震え続けている。
栞は何だか口調までおかしかった。
「…………おい!!栞に何をしたんだ!!」
栞は明らかに、僕を撃つ事に躊躇いを覚えているようだった。
だから僕は、下手に動かなければ今直ぐに撃たれる事は無いだろうと見切りをつけた。
そして、いつの間にか栞の背後に回っていた男の、目を見ながら怒鳴った。
「…何もしていない。僕はただ、提案しただけだ。君を撃つのはどうかなぁ、って」
「それで何で栞がこんな風になるんだ!!本当の事を言えよ!!」
「こんな風、ねぇ。実験体に過ぎない君に栞の何が分かるのか。……それよりもその目。もしかして君、思い出したのか?」
男の言葉にどう答えるべきか迷った。
僕の記憶が戻ったという手札は、まだ伏せておくべきなのか?
「その反応を見ると、本当に戻ったみたいだな。………僕とお前の【能力】の強さを考えれば、有りえない筈なんだが。どうやったんだ?」
今までへらへらとした笑みを貼り付けていた男が、急にドスを利かせた声で睨んでくる。
駄目だ。ここでびびったら負けだ。ふんばれ僕。
「お前に答える義理はない」
「……ま、いいさ。お前はもう死ぬんだからな。もういい、撃て!!栞!!」
栞はビクリと体を大きく震わせ、下がり掛けていた銃身を僕に向かって上げ直す。
僕の見間違いかもしれないが、その目には涙が溜まっていた。
【此処】に来てから、僕が死に掛けるのはいったい何度目だろうか。
栞に殺されるのなら、それもまあいい。訳がない。
こんな何も分からないまま死んでたまるか。
銃を構える栞を睨みつけると、栞はどこか怯えるように、銃口をふらつかせた。
そうだ。僕は栞を助けなければならない。
「何をしている!!早く撃て!!」
「待ーて待て待て待て待て!!何だこの状況は!!!」
怒鳴るような白衣の男の声に重なるように、別の男の声が響いた。
そんなに時間が経っていない筈なのに、なんだか無性に懐かしい。
見なくても分かる。声の主は、英知だった。