※14話 ばれていた嘘
何故この男が、ここにいるのだろう。
亜空や千鶴子を、別の施設に移しに行ったのでは無かったのか?
必死に冷静さを保とうとする私。【良心】が無いと思われている私。
確かに状況は悪いが、その部分がばれていなければ、まだ何とかなる。
茉莉君が、男と会話を交わしていた。聞こえてはいるのだが、内容が頭に入って来ない。
それほどに私は焦っていた。
やがて、茉莉君が頭を抱えて座り込んだ。どうしたのだろう。心配ではあるのだが、今の状況を思うと駆け寄る事もはばかられた。
「さて、栞」
【茉莉】を本当に物でも見るように見下ろしていた男は、やがて私の方に振り向き、話しかけて来た。今までの寒気のするような猫撫で声ではなく、真剣そのものの声で。そしてその目は【茉莉】に向けられたのと大差ないものだった。
やめて。
そんな目で私をみないで。
「君ももう用済みだな。僕の実験を手伝いたいと、あれほど熱心に言うから、使ってやっていたのに。君には失望したよ」
「……そんな。待って下さい。これからはちゃんと―――」
「次なんてないよ。それにね、上手く隠していたようだけど、僕の目は誤魔化せない」
「…………」
まさか。まさか。
「君は【良心】を失ってなどいない」
ばれていたのか。
私の【代償】。
【良心】。
それは、嘘ではないけれど、本当でもない言葉。
私の体が細かく震えだした。はっとして抑えようとするが、自分の意思ではどうにもならなかった。
止めをさすように、男は言葉を続ける。
「いい気なもんだな、人からは奪っておいて、自分は何も失わないなんて。【良心】なんてそんなくだらないものが【代償】になるという時点で、君は人間として腐っているんだ」