13話 ある一つのノイズ
「どうしたどうした?もしも何か考えの事があっての事なら、早めにそう言ってくれ?そうやって黙っているのなんて、そこいらの人形だって出来る。それともやっぱり、怖くなったのか?まさかそんな筈はないよねぇ?」
「……………止めませんか?」
「はあぁ!!?今「やめる」とか聞こえた気がしたけど、僕の聞き間違いだよねぇ?」
「……………」
「なぁ栞ちゃん?君、まさかとは思うけど、【茉莉】に同情したとか言わないよねぇ?そんな訳ないかぁ!!何たって栞ちゃんは、【良心】なんてもの持ってないんだもんねぇ?」
栞に良心が無い?
いるはずの無い男が急に現れた事に、混乱を来たしていた僕の思考が、その一言で戻ってきた。
「待てよお前!!栞に良心が無い!?急に現れて何言ってるんだ!?そんな馬鹿な事があるか!!」
怒鳴っていた。そんなつもりは無かったのに。何故か僕は男に対して声を荒げていた。どうしてだろう。この男は、この男だけは許せない。初対面の筈なのに、僕はこの白衣の男を心底嫌悪していた。
「…………やれやれ、実験体は実験体らしく、おとなしくしていたまえ」
「何だとっ!!」
「あぁ五月蠅い五月蠅い。どうせ君はもう直ぐ死ぬか、狂うんだ。最後くらい静かにしていろ」
「黙れっ!!」
「……お前ももしかして、微かに覚えているのか?」
「何の事だよ!!!」
「……………その怒りは、何に対しての怒りだ?黙っていろと言われた事か?実験材料と言われた事か?それとも―――」
「栞に酷い事を言ったからだ!!」
本当はそれだけでは無かった。自分でもよく分らないほどに、この男が憎い。
男は、僕の言葉を聞くと、何を言っているのか分からないというように、呆けた顔をした。
「ははは。そうかそうか。それはまた下らない理由だな。的外れでもある。別に嘘など言っていない。この女は、心など持っていない。いや、正確には【良心】など持っていない」
この男は何を言っているのだろうか。栞に良心が無い筈がない。それなのに、何故栞は男の言葉に反論しないのだろうか。
様々な考えが頭を巡った。その中の一つが、ノイズのように僕の頭を掠める。
―――――部屋に帰った後、無意識のうちに触れるような所に置いて下さい。無意識の内に、というのが重要です。
だから僕は、無意識では無かったが、その誰とも分からない言葉に導かれるように、ポケットを探った。