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9話 例えばの話だけれど


「………例えば、」

栞が、呟きと共に歩き出した。僕は少し慌てたが、栞が向かう方向が出入り口とは明らかに違ったので、言葉の続きを待った。

歩みを止める事無く、トッ、トッ、と軽い足音を立てながら栞は歩いて、やがてこちらを向いて止まった。その背後には大きな穴が開いている。

何だろうあの穴は。ここは屋上だぞ?あんな位置に穴が有ったら危ないじゃないか。それよりも僕は何をしていた?栞が止まったからよかったようなものの、あのまま飛び降りていた可能性もあるんだぞ?否、そんな事よりも、何故僕はそこに穴がある事に気付かなかった?忘れていた?馬鹿な。そんな筈はない。じゃあ何故?何だこれは?何であんな場所にあんなにも大きな穴があるんだ?ああ、ああ、頭が痛い。


「―――そう、例えばね、茉莉君。私はここから落ちたら死ぬのかな?」

言いながら栞が指差す先は、もちろんそこに有る大きな穴だった。

「―――それは。それは、死ぬだろう」

「何故?君はこの穴の底がどうなっているのか、知っているのかい?」

そんな問いかけとともに、栞は僕の目を覗き込んでくる。

その問いかけは、どういう意味なのだろう。あの穴の底がどうなっているかなんて、もちろん僕は知っている。あの穴の底は………。……おかしいな。思い出せない。

栞の言うように、もしかしてあの底は意外と浅いのだろうか。そうだっただろうか。よく思い出せないが、違った気がする。………気がする、のだ、が。確信が、持てない。僕はそんな当たり前の事に確信が持てないのだった。


「―――例えばね、」

僕の混乱に追い討ちをかけるように、栞は言葉を続ける。

「君はこの穴がどうして出来たか分かるかい?」


「分か………らない」

「君は、私を死なせたくない、つまりは、救いたいんだろう?」

「そうだ。そうだよ。僕は君を死なせたくない。………救いたい」


「ならもう一度聞くよ。君は何故この穴が出来たのか知っているのかな?」

それが栞を救う事と、どう関係するのだろうか。それでも僕は必死になって思い出そうとするが、やはり穴が出来た理由は分からない。頭の痛みが酷くなるだけだった。そんな僕を、先ほどのように複雑な感情を込めた瞳で見つめながら、栞は言葉を続けた。

「―――それが分からないようじゃ、奴の【能力ちから】に抗えないようじゃ、私を救う事なんか出来ないよ」

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