7話 やけに大きく響いた言葉
「………じゃあ、私は行くよ」
「ちょっ、ちょっと。待って。待ってくれよ。い、行くって。何処へ?何処へ行くっていうんだ?」
「……そうだなあ。特に何処か場所をはっきりと決めてはいないけれど、それなりの場所へ」
「それなりの場所って?違う。ちょっと待ってくれよ栞。そうじゃない。そうじゃないんだ。君のその言い方だと。それはまるで―――」
「やれやれ。もう少し整理してから喋りなよ。それに、君の想像は間違っちゃいないよ、きっと」
「………間違って、ないって。栞。君は、本当に―――」
「ああそうさ。死に場所を探しに行く。芝居がかったセリフは嫌いなんだけどね、そういう事だよ」
「……………」
「死ぬ場所くらいは、ベストな場所を選びたいからね」
――――――――――ナニカガ、オカシイ。
何だか頭が痛かった。今日は朝から頭痛が連続して起こる。でもそんな事は今はどうでもいい。何がおかしいのだろうか。否、それは分かっている。栞の様子がおかしいのだ。栞は確かに真剣そのものだが、それなのにどこかリアルじゃない。矛盾した考えだが、それが間違っているとは思わなかった。
「お、おかしいじゃないか」
「ん?」
「例え死んでも、【此処】から居なくなるだけだと、君はそう思っているんだろ?」
「…………そう言ったね」
「なら、場所なんて関係ないじゃないか」
「……………。………どちらにせよ、君の目の前で死ぬというのは気が進まないからね」
――――――――――オカシイ
栞の目は、真剣そのものだ。それなのに、それだから、やはり何かが決定的におかしかった。
「ふむ。………そういう事だ。それじゃあね、茉莉君」
実にあっさりと、そう言って僕に背を向ける栞。
「―――待ってくれっ!!!」
僕は必死で呼び止めていた。栞が簡単に死ぬような人間だとは、僕は未だに思えなかった。どれだけ真剣に訴えられようと、僕はそれでも栞の言葉を心のどこかでは冗談として処理していた。
でも。栞の「それじゃあね」の言葉だけがやけに大きく聞こえて。本当に消えてしまうような気がして。僕は必死で栞の背中に声を掛けた。