※6話 私が消えてしまえるように
私の言葉は、きっと冗談には聞こえていないだろう。
本当に死んでしまうつもりは無いが、どちらにしろ【茉莉】とはこれでお別れだ。
もう会えなくなってしまうのは本当なのだから、迫真の演技とは言えないまでも、それなりの真剣さを感じさせている筈だった。
「―――でも、一回死んだら生き返れないだろ?人の命は一つしか無いんだから」
ふいに、会話の途中で茉莉くんがそう言った。
その通りだ。人が生き返るなんて馬鹿な事がある筈がない。私が信じてきた【常識】を、これまで何度も何度も打ち砕いてきた【能力】だが、未だに人を生き返らせる【能力】なんてものは聞いた事がない。死というのは一方通行なものなのだから、そこをぼかす事は、さすがに出来ないのだろう。
………そうか。茉莉君は本当に。みんなは死んでしまったと思っているのか。
でも本当は生きている。【英知】や【頴娃】は、こちらの意図に―――英知は自らの推理によって、頴娃はその【能力】によって―――それぞれ薄々気付いていたようだから、もう別に殺してもいいという命令だったが、私はあえて生かした。そう、生かしたのだった。奴の命令に背いて。
奴の命令に背く事が、私にどれだけの不利益を生むのかは分からない。でも私は、それでも殺す事は出来なかった。私は、冷酷になりきれない、どっちつかずの駄目人間だった。
「そうだよ。君も何度も見ただろう。ゆるやかに狂って、消えていく人たちを!!」
私の言葉に、茉莉君が激昂した。何を言っているのか一瞬分からなかったが、整合性を持たせるために死んだとされている人間は、「狂ってから」死んだ事になっているのか。
「…………………その件なんだけどね、茉莉君―――」
私は、どういう返事をしようか、少し迷った末、言った。
「―――彼らは、本当に死んでしまったのかな?【此処】から出て、【元の世界】に戻ったんじゃないかな?それだけの事なのさ、きっと。だから―――――」
だから。
―――――だから、何なのだろう。私は何と続けようとしたのだろう。私は。………私は。
「私、一回死んでみようと思うんだけど」