※幕間に変わる3つの光景(英知×頴娃)
「どうですか?ありましたか?」
正立方体の部屋の、俺の位置とはちょうど逆の端を調べていた頴娃が、呼びかけてきた。その声は些か疲れているようだ。どうも向こう側にも出口は見つからなかったらしい。それでも俺はもしかしたらという思いを込めて聞いた。
「いや、見つからないな。そっちはどうだ?」
「こっちもです。隙間すら見つからないというのはいただけませんが」
そうなのだ。俺もそこが気になっていた。
この部屋に出入り口らしきものがないのはまぁいいとしよう。俺たちを閉じ込めておくためなんだろう。これは納得できる。でもそれにしても、隠し扉か何かにしても―――隙間さえないというのは、おかしいじゃないか。これではもともとドア何か存在しないようではないか。
「そうですね。………僕たちの探し方が甘いのかもしれませんが」
俺の考えを【見て】、頴娃が賛同を示す。心を見られるのはもう慣れた。例え読まれても、頴娃はこちらに都合の悪い事は発言しないようにしているようなので、別に悪い気はしなかった。向こうも見たくて見ているのではないのだから尚更だ。
「それにしたって、だ。痕跡を完全に消しさる事は不可能だと思うんだが」
「どこか見ていない場所があるのかも。天井という可能性もありますし」
「………天井、か」
「調べてみますか?」
「いや、一旦休憩しよう。焦ったってしょうがないし、疲れた」
「そうですね。僕も疲れました」
二人並んで腰を下ろす。暫くお互いに黙っていたが、やがて頴娃が口を開いた。
「僕たちを同じ場所に閉じ込めているのには、どういう意味があると思いますか?単に閉じ込めておくのなら、メリットが無いと思うのですが」
「うーん。分っかんね。部屋が無かったとか……いやそれはないか。まぁ、強いて言うなら仲間割れとかかもな。少し前まで、対立してた訳だし」
「………ありがとうございます」
「何がだ?」
お礼を言われる心当たりは無かった。
「【アル・アジフ】に囚われた僕を助けてくれた事です。それと、今も普通に話してくれている事」
「まあ気にすんな。そっちも辛いみたいだからな」
「それでもですよ。大抵の人は、僕の【能力】を気味悪がって、離れていきます。たまに同情してくれる人も居ますが、そういう人もどこか距離がある。…………だから貴方と居るのは楽です。茉莉さんもそうですが、心が休まります。―――だから、ありがとうございます」
「やめてくれよ。何か恥ずかしいから。それより、一つ思いついたんだが聞いてくれるか?」
もう頴娃は【見て】いるのかもしれないが、はいと頷いてくれた。
「いやまあ、この部屋の事じゃないんだが………【此処】はもしかして、浮いているんじゃないか?」
「建物全体が、という事ですか?」
「そうだ、そうすれば、屋上から見える景色にも納得がいく」
「それにしたって、建物全体を浮かすのは無理がありませんか?」
「………普通は無理だと思うけどな。どうも【此処】には桁外れに【能力】が強い奴が集められているみたいだし、もしかしたら。それに【アル・アジフ】の件もある」
「あの本に限らず、何かで【能力】を強化して、って事ですか。………確かに、可能性はあるかもしれませんね」
「だろ?だから―――」
俺と頴娃は、同時にそちらを向いた。人の気配を感じたのだ。
そこには、どこから入って来たのか、フォリスが立っていた。
俺たちの事を見て、何だか泣きそうな顔になっていた。