※幕間に変わる3つの光景(千寿×フォリス)
私は廊下を歩いていた。窓の外を見る。でも見えるのは空ばかり。いくら辺境の地に【此処】があったとしても、山も見えないというのは少しおかしいような気がしていたが、分かってみれば納得だった。逆に今までその事に深く疑問を抱かなかったのが、恐ろしい。私の思考を押さえ込んでいた【能力】はどれほど強いものだったのだろうか。
たたた、と向こうからフォリスが慌てた様子で走って来る。
…………ん。フォリスが逃げて来るという事は……………。
凄いわね、茉莉君。こうなる可能性は1パーセントにも満たなかった筈だ。彼は幸運の星の元に生まれて来たんじゃないかしら。
「あ千寿ちょっと聞いてまずいのよ茉莉が急におかしくなってそれで―――」
私を見つけたフォリスが、走りながら話かけてくる。
「落ち着いて、フォリス。千鶴子は無事よ」
「―――私を逃がすために千鶴子が………って何であなたあれおかしいわ千寿はあの場にいないと思ったんだけど何処かに隠れていたのかしらそれとも―――」
「ええ、確かに私はいなかったけど、私には分かるのよ。茉莉君が変な本を持ってたでしょ?アレを私も持っていた事があるのよ。それで【能力】が強化されて未来の可能性が凄く詳しく見えるようになっちゃったの」
「―――何を言っているのか分からないわ、というかあの本を貴方も持っていたというんなら私は貴方に近づかないほうがいいのかしら、そうなのかしらもしかしたら私は以前としてピンチなのかしら―――」
フォリスが喋っているのにも構わず、私は一気に言葉を繋げた。フォリスは、自分が話している間もちゃんとこちらの話を聞いているみたいだから、向こうが話していても話すくらいでちょうどいい。
「まぁ、ピンチといえばピンチかもしれないわ。この場に留まっていたらあの男に捕まるから、貴方に行って欲しい場所があるの?」
「―――あの男って誰なのかしら茉莉ならそう言う筈だし貴方の言葉はさっきからよく分からないわ、それに―――」
ああ確かに分かりにくいかもしれない。
分かり過ぎているというのも、駄目なのかもしれない。
茉莉君に【アル・アジフ】を無事に渡して、狂気から開放されたのは良かったけど、【能力】は強化されたままだった。もっとも、未来を選ぶ事はできないようだが。やたらと未来の可能性が見えるようになってしまった。この分かり過ぎるという苦悩と、これから一生付き合い続けるかと思うと、自然と溜め息が零れる。私は、目の前で喋り続けるフォリスに、とにかくいけば分かるから、と、その場所の位置を伝え、とにかくこの場所に居るのは危ないから、とフォリスをその場所へと向かわせた。
フォリスは走り出すと一度振り向いて、「千寿も一緒に行かないのか?」という意味の事を聞いて来たが、やる事があると言って、半ばむりやり一人で向かわせた。
フォリスの【能力】を使えばあの場所に入る事も可能だろう。閉ざされたあの部屋に。
そして私は、【木霊】を名乗る男が来るのを黙って待った。今はあの男に大人しく捕まった方が、私が【此処】から出られる可能性は、どうやら一番高いらしい。注射は嫌いなんだけどなぁ。
………まったく、分かり過ぎるというのは碌なもんじゃない。