※幕間に変わる3つの光景(栞×木霊?)
「それで、何でここに貴方がいるんですか?」
「何で?気分さ。強いて言うなら、可愛い栞ちゃんの顔をふいに見たくなってさぁ」
どの口がそんな事を言う。人の命でさえ何とも思っていない癖に。
「…………そうですか。それで、彼女たちはどう処理すれば?また閉じ込めておきますか?」
「つれないなぁ。その返事だと自分が可愛い事を認めているように聞こえるよ?まぁ僕はナルシストは嫌いではないけどねぇ。……好きでもないけれど」
どうせこの男は、ナルシストがどうとかでなく、人間自体にさほど興味がないのだろう。精神的肉体的に弱り切った亜空たち三人に、容赦なく睡眠弛緩薬を注射した事からもそれが伺える。健康な人間を瞬時に眠らせる薬を、弱っている体に打たれて大丈夫なのかと、多少心配しながら観察していると、白衣の男は言葉を続けた。
「……そうだなぁ。もう今回の実験には必要ないだろうし、下に【降ろし】ておいてくれ」
「分かりました。…………昨日閉じ込めた二人はどうしますか?」
「昨日?……………あぁ【英知】と【頴娃】か」
本当に忘れていたのだろうか?思い出したように男は言う。
「ん、そうだな。彼らももう【降ろし】ていいよ。何か使い道があるかと思ったが、結局役に立たなかったな。あいつらは今どうしてるの?まだ寝てるの?」
「いえ、その注射は確かに強力ですが、さすがにそろそろ目を覚ます頃かと」
「あ、そう。じゃあ戻す前にもう一度眠らせないといけないかな。めんどくさいな。薬渡すから、やっといてくれる?」
「………分かりました」
あの二人に気付かれないように注射するなんて至難の技だが、何とかやってみるしかない。上手くすれば、まだ眠っているかもしれない。あの薬の強力さは、茉莉君を見ていてよく分かっている。
「じゃ、そっちは君に任せるとして、【茉莉】を渡してくれ。念入りに記憶をいじらないといけないから」
「………」
「どうした?まさか情が移った訳でもないだろう?」
「…………」
私は、黙って男に【茉莉】を手渡すと、部屋に寝転がる三人を【降ろす】作業に移った。