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19話 その者の名前を


目の前の女は、僕を睨み続けている。

なんだ?僕はこの女に、恨まれるような事を、何かしたのか?

………覚えはないが、女の視線には、確かに憎しみが混じっていた。


「……まったく、次から次へと、なんで………」

背後から、珍しく感情もあらわに、狼狽した声を出す栞。

しかし今そんな事はどうでもいい。

順番に問題を片付けていかなければ。

とりあえずは、目の前の女から。

どうする?壊すか?

………それは何だか気が進まない。


……………ちっ、栞と亜空のせいで、気持ちが何だか落ちつかなくなってしまった。


「…………しな…いよ。」

目の前の―――鞘香と呼ばれた―――女が、何かを僕に訴えかけてくる。


「何だよ。」


「英知を返しなさいよ!!」


英知、というその名前を聞いたとき、体の芯がぶれたような気がした。

「……誰だよ、それ、何の事か分からないよ!!」


「嘘!!嘘よ!!英知を!!早く英知を返してよ!!何処を探してもいないの!!」


「そんなの僕は知らないよ!!」


「そんな訳ないでしょ!?貴方と最後に会ってたのは、分かってるんだから!!」


「知らない。知らない。僕は、何も、知らないよ。」

胸が、えぐられているような気がする。

何だろう、何故だろう、思い出せない。

違う、思い出しては、いけない事のような気がする。


「………鞘香君、……………その。」


「外野は黙ってて!!」

後ろから、栞が何かを言おうとするが、それをぴしゃりと止める鞘香。


「ほら!!速く言ってよ!!英知をっ!!返してっ!!」


僕の服を両手でぐわしと掴み、上下左右に乱暴に動かす。

冷静な判断力を、失っているようだ。

そんな風に凄まれても、困る。

僕は本当に知らないのだ。


「……………おい、鞘香……。」


「返して!!返して!!なんで!?なんで私から英知を奪おうとするの!?」

亜空も止めようと声を掛けるが、全く耳に入っていない。


それにしても、あまりにも理不尽な怒りだ。

「僕は知らない。」


「嘘よ!!」


「嘘じゃない!!」


「嘘よ!!嘘よっ!!」


「嘘じゃないって言ってるだろ!!」

何だ?

この女は何なんだ?

いきなり現れて、今にも殴りかかりそうな勢いで、僕を責める。


……………壊してしまうか?

そうだ。

壊してしまえば、いい。

何を僕は迷っていたんだ?

こんなに簡単な答えが、あったじゃあないか。



「……………おい、栞、まずいよな、コレ?」

「…………………………ああ。」

背後で、誰かが会話していた。

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