18話 希薄な存在感
背後に、気配を感じた。
それは、うっかりすると気づかないような、そんな希薄な気配だった。
まさか、謀られたか?
僕を油断させて、その隙に、さっきの金縛り女が、後ろから本を奪おうという魂胆か?
慌ててふりむく。
正直やられた、と思った。完全にふいをつかれた形であったし、
後ろの女は、完全に疲弊していて、しばらく動けないだろうと思っていたからだ。
つまり、僕はその時、油断しきっていたのだ。
「……………?」
おかしいな。誰もいない。
金縛り女も、遠くで倒れこんでいる。顔だけはこちらに向けているが、やはり疲弊しきっていて、しばらく動けそうに無い。
それどころか、僕があわてて振り向いた事を、不思議そうな、怯えたような顔で見ていた。
栞と亜空の方へと、再度振り向く。
二人の反応は、正反対だった。
亜空の方は、唖然として、何故僕が振り向いたのかを考えているようだ。
栞の方は、僅かに身構え、僕の動向をつぶさに観察している。
どういう事だ?この二人が何かやったんでもないのか?
今確かに、何かの気配が……。
気の、せいか?
いや、気のせいじゃない。
僕は、自分の感覚を信じて、何も無い空間へと手を伸ばした。
「うを!!なんで分かったのよ!!」
何もない空間から突如として現れた女は、僕をじっとりと睨みつけていた。
誰だ?
「鞘香っ!?」
「……………鞘香、君?」
僕のその疑問は、栞と亜空の声によって、解消された。金縛り女も驚いたようだが、もう碌に声も出せないらしい。
もっとも僕には、名前が分かった所で、特に意味は無かった。
また敵が一人増えた、という、ただそれだけの事だった。
僕の中で、また闘争心が湧き上がりつつあった。