16話 溜め込まれた感情ー04
「……………まぁ、結果オーライだ。」
栞は、何かを吹っ切るように、言った。
口調は全く変わらず平坦だったが、何となくそう思った。
「ん?何がだ?俺のせいでお前の作戦は失敗したんだろ?それが何が結果オーライなんだ?問題ないなら、もう部屋に帰って寝ようと思うんだが。」
亜空が問う。
「………失敗なんかじゃないよ、現に、彼が私たちの名前を覚えていなかったのが、分かったじゃないか。」
「は?何で?」
「覚えていたのなら、私の嘘に、騙されそうになる訳がない。というか君と話すのは疲れるから、少し黙っていてくれないかな。」
「おっ前!!」
あまりの言い分に、亜空が声を荒げる。
「悪い。言い方が悪かったね。そういう事じゃない。」
「悪かったってお前、じゃあどういう事なんだよ。」
「私はしばらく茉莉君と話し合うから、君は少し黙っていてくれ。」
「おまっ!!それほとんど同じじゃねーか!!」
―――わずかに違和感を感じた。
「少し黙っていてくれませんか?」
―――やはり何かおかしい。
「礼儀正しければいいってもんじゃねーぞ!!」
―――違和感の正体が掴めない。何かがおかしいのは間違いないのだが。
「黙っていて下さいませんか?」
―――分かった。栞の、顔だ。あまり表情に変化が無いから気づかなかったが、今の漫才のような会話にはまるでそぐわない、不愉快そうな顔をしている。
「だから丁寧さの問題じゃないって!!」
―――気づいてみれば、亜空の方も、やはり何かがおかしい。どこかぎこちない。
違和感だらけの、おかしな会話を、しかし僕はただ眺めていた。
毒気を抜かれたとでも言うのか、闘争意欲が、いつのまにか完全に萎えてしまっていた。