14話 溜め込まれた感情ー02
「……………………聞きたい事がある。」
僕が話に応じた事に、男―――確か、亜空といったか―――は、多少驚いたようだ。
が、やはりというべきか、栞の方は、眉を少し上げただけだった。
眉を上げただけでも、この女にしては珍しいような気がする。
どうやら、多少なりとも驚いているらしい。
「……………なんだい?」
「今僕を弾いたのは、どっちの【能力】だ?」
「ん?そんな事も忘れてしまったのか、あきれた奴だなぁ、君は。………亜空君だよ。」
「な!?おい!?栞!?」
内心、聞くだけ無駄だと思っていたのだが、あっさりと返事が返って来た。
嘘と疑う事ももちろんできたが、隣りの亜空の焦りようから、それはどうやら本当の事だろう。
それが本当の事だとしても、やはり調子が狂う。
なんでそんなあっさり言ってしまうんだ?
理屈に合わない。意味が、分からない。
「茉莉君。」
やはり感情の読めない声で、栞が呼びかけて来た。
「……………なんだ?」
「私の名前を、覚えているかい?」
「……………栞、だろ?」
「違うよ。」
「違う?」
「そう、違う。」
隣りの男が何か言おうとしたようだが、栞?は乱暴に口を押さえつけてそれを止めた。
何だ?仲間割れか?
「でもお前は、さっきその横の男―――亜空―――に、栞って呼ばれてただろ?」
「ちなみに彼の名前も亜空じゃない。」
横の男を指差しながら、女は言う。
また何か言いたそうな素振りを男は見せるが、女が睨みつけて黙らせた。
「……………。」
「いわゆるコードネームというやつだ。君に本名を晒す意味がないだろう?」
女は、僕の目を覗き込みながら、そう言った。