12話 茉莉と栞-07
「……………?」
なんだ?どうなっている?今僕は、確かに、女を壊した筈なのに。
何の手ごたえもない。それどころか、触った感触すらなかった。
何故だ?あきらめたような顔をしていたのに。
演技だったのか?まだ何か奥の手を隠していたのか?
しかし、10メートルほど離れた位置にいる女のその驚いたような顔を見る限り、その可能性は低いような気がした。
「大丈夫か千鶴子!!ったく!!どうなってんだ!?」
突然後ろから大声が響いた。
その声には、聞き覚えがある。ような気がする。
また邪魔が入った。
さっきも、金髪のガキを壊そうとしたら、突然体が動かなくなった。
多少いらいらしながら振り向く。
目が釘付けになった。
声を出したと思しき男にではなく、その横に立っている女を見たせいだ。
その女の事を、僕は確かに見たことがあった。
囁くような声で、何事かを呟いている女を見ていると、ふつふつと、今までよりも遥かに強烈な、破壊衝動が襲ってくる。
隣りの男に話しかけているのではなく、声に出す事で、考えを纏めているようだ。
そんな事はどうでもいい。
アノオンナヲ、コワシタイ。
衝動のままに、女に襲い掛かった僕の体が、再び引き離される。
「オイっ!!茉莉お前っ!!今本気だっただろ!!シャレになんねーぞ!!」
疲労感を漂わせつつ、激昂する男。それとは対象的に、落ち着き払っている女。
虚勢を張っているようには見えない。
どこか呆れたような、どこか哀れむような声で、女は僕に話しかけて来た。
「ふん。無事………ではないようだけど、手遅れでもないようだね。まったく君は、強いのか弱いのか、よく分からない人間だね、相変わらず。」