※11話 千鶴子と茉莉
あ゛〜〜〜〜〜〜!!もう!!
疲れた!疲れた!!疲れたっ!!
努力なんてものは、私に向いてないと思うのよねー。
キャラじゃないっていうか、生理的に受け付けないっていうか。
努力?
違うか。今のこの状態は、努力とは違う。
努力というよりは、むしろ我慢。そう、忍耐。
責められるのは、嫌いなんだけどな。
責めるのは、大好きだけど。
このままの状態が続くと、私どうなっちゃうのかなー。
気絶とか?
それならまだいいのだけれど。
後遺症とか残ったりしないといいな。
…………むしろ、茉莉君のあの尋常じゃない状態からして―――
貞操、並びに命の心配をした方がいいかもしれない。
茉莉君の体を、私の【能力】で支配して、何秒くらいたったのかしら。
少なくとも分の域には達してるわね。
180秒くらいは、経ったんじゃないかと、予測してみる。
もっとも、支配するといえる程に、支配できてはいない。
ただ動かないようにしている、そんな感じ。
………………………………………そろそろ苦しくなってきた。
……………フォリスは……………ちゃんと逃げてくれたみたいね。
というか、何で茉莉君があの本を持っているのか。
千寿が持っている時にも思ったけど、あの本、どうも嫌な感じがするのよね。
本から嫌な感じを受けるなんて、私もついに危ない領域に入ってしまったかと思ったけど。
どうも、そういう訳でもないみたいね。
自分で言うのもなんだけど、私の【能力】は、相当強い部類の筈。
それなのに、特に【能力】を使っている様子もない茉莉君に、ほぼ相殺……………というか徐々に押しきられつつある現状からすると、
あの本は、【能力増殖装置】といった所かな。
……………………………………………………余裕をかましてる場合じゃないわね、実際問題として。
なんだかんだで、今此処で何とかしないと、結局フォリスも危ないのだから。
どうにかできる気が、1%もしないのが苦しい所だけど。
もう限界かもしれない。諦めるのは嫌いだけど、
―――どうしようもない事も、この世界には確かにあるのだから。
私がこの【能力】を手にいれた時だって……………………
いけない。ここでブルーな気分になんてなったら、終了してしまう。
このままではジリ貧で、かといってそれ以外の手段は無いけれど、せめて精神だけでも強く保たないと。
とはいえ、精神論にももちろん限界はあるわけで。
「……………。」
ついに限界を迎え、私の拘束が解けると、茉莉君は黙って私に近づいてきた。
笑っているようにも、泣いているようにも見える顔をして。
なんて顔をしているのか。
茉莉君の黙って振り上げたその手を見て、私は死を連想した。
なんて安易な、とは思う。
だって茉莉君は素手なのだ。
一回や二回殴られた所で、痛いのが関の山。
殴られ続ければ、そりゃあ死んでしまうかもしれないけど。
ふりあげた拳を見たというただそれだけで、死を連想するなんて、どうかしているのだ。
でも、それを振り下ろされると、きっと私は死んでしまうのだと、その時私は、そう思った。
一応衝撃にそなえて身構えていたが、いつまでたってもそれが来ない。
不思議になって顔を上げると、たった今まで直ぐ横に立っていた茉莉君が、10メートルほど向こうに立っていた。
意味が分からない。
事態が理解できない私の耳に、二つの声が飛び込んできた。
「大丈夫か千鶴子!!ったく!!どうなってんだ!?」
「ふむ。タイミングがよすぎるな。創作物でもあるまいし、誰かの意図が介入していそうで怖いな。………そんな筈はないんだが。……………………。」