※10話 栞と亜空
「あの本が原因なのは分かった。というかそれは前から分かってたしな。それで?結局俺は何をすればいいんだ?」
俺は、廊下を進みながら、隣にいる栞に訪ねた。
「………分からない。」
顔色一つ変えずに、栞はそう答えた。
「分からない?お前さっき、俺にしかできないとかなんとか、言ったじゃないか。」
「む。そうなんだが。………………。」
そのまま黙ってしまいそうだったので、先を促す。
「そうなんだが?」
「………具体的に何をすればいいかは分からない。もしかするともう………。」
今日の栞は本当におかしい。
いつもなら、言わないでいいことまでズバズバと言ってくるのに、今日はやけに言葉を濁す。
濁すのだが、相変わらず涼しそうな顔をしている。
本当によく分からない。
「………………なぁ、やっぱりもう俺帰ってもいいか?」
半分冗談ぽく言ったが、半分は本気だった。
少なくとも俺は、栞の返答いかんによっては、本当に帰ってしまうつもりだった。
「………それは………困る。」
「………困るってお前な、俺だって疲れてるんだぞ?せめて俺は何をすればいいか、それだけでも教えてくれないか?」
「………………すまない。分からないんだ。」
本当に少しだけ、申し訳なさそうな顔をしながら、栞は言った。
普段恐ろしい程無表情な栞だから、その微妙な変化を見て俺は、もう少しだけついて行みようか、と思った。
同時に、後回しにされている俺の様々な疑問は、いつになったら答えてくれるんだろうか、と思った。