8話 崩壊ー01
頭が痛い。
体が痛い。
なにより、心が―――痛い。
痛い?
痛いのか?これは。
この感覚は、痛いというよりは―――
「怖いの?」
千寿さんが、笑みを浮かべながら問う。
何故笑っているのだろう。
何がそんなにおかしいというのだろう。
僕がこんなに苦しんでいるというのに、それをこの女は、笑ってみている。
怖いなどと、ふざけた事を口にして。
怖いと、痛いは、全然違うじゃないか。
ふざけるな。ふざけるな。
何で、僕が、こんな目に。
「憎いの?」
笑みを崩さずに、千寿さんは飄々と言う。
もう仮面は必要ない筈なのに。
「怖いのでもなく、憎いのでもなく、それならば、壊したいのね?………私がそうだったように。」
壊したい?
そうかもしれない。
その表現が、一番正しいのかもしれない。
もう体は痛くない。
ただただ、力が欲しい。
そして、その力で、壊したい。
ありとあらゆるものを、ただただ壊したい。
「………私はもう行くから、ここにいたら危ないし。……………また会えるといいわね、茉莉君。ちなみに確立は………4パーセントよ。」
そう言って、女は部屋を出て行こうとする。
僕はその背中に襲いかかろうとして、何とか自分を押さえ込んだ。
………今、僕は何をしようとしたんだ?
千寿さんを、壊そうとした?
怖くなって、【アル・アジフ】を手放そうとするが、忌々しいその本は、手に吸い付いたように離れない。
―――力が、欲しい。
いや、違う。そうじゃない。
―――壊したい。
違うんだ。
僕は、千寿さんの行為を思い出して、むりやり笑う事にした。