6話 開放
粛々と、作業は進む。
まず、右手が動くようになった。
その時点で千寿さんは、「これでやめておく?」と楽しそうに聞いてきたが、
もちろん辞退させていただいた。
片手だけ自由になった所で。いまさらだ。
次に、左足の縄を解きにかかる。
何だその順番?と思ったが、声に出して質問する事はしなかった。
今は変な刺激を与えないようにしないと。
千寿さんは、僕の顔をちらちらと盗み見ているようだった。
突っ込みを期待しているのかもしれないが、そんな事はしらない。
左足の縄が意外と固かったらしく、途中で作業を中断し、千寿さんは僕の右足の縄を解きにかかった。
…………まぁ、そういう事もあるんだろう。
手に大事そうに持っている本か包丁、どっちかを一旦どこかにおけばいいんじゃないかな?言わないけど。
というか、包丁で切ればいいじゃないか?言わないけど。
その前に、包丁をおいてくれないかな、手が滑りそうでひやひやする。もちろん言わないけど。
次に、左手。
何のことはなく、解けた。
僕が何も言うつもりがない事が分かったのか、千寿さんも至って普通に縄を解いてくれた。
最後にもう一度左足。
これがどうしても固いらしく、ついに包丁を使おうとしたが、それを僕が諌める。
諌めて、自分で解いた。
千寿さんは不満そうだったが、動くようになった両手のリハビリとしては、なかなかにいい仕事だった。
「さて、と。じゃあ、コレ。」
ようやく縄が全て解けると、
今まで宝物か何かのように抱えていた【アル・アジフ】を、あっさりと渡してくる。
あっさりとし過ぎていて、何か裏があるのではないかと疑いたくなったが、おとなしく受け取る。
受け取る直前、千寿さんが何かを言った。
よく聞き取れなかった。聞く暇もなかった。
僕の体の中を、何かが乱舞するような違和感。
僕の体が。
僕の体、なのか?これは。
千寿さんは、もう一度、さっきよりも大きな声で言った。
「のまれないでね?」